モヒートを飲みたい夜

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ベットにいたホクトが俺に近づいてきて、ホクトの手が俺の頬を掴む。

頬を上に持ち上げたり、離しては引っ張ったりを繰り返して、楽しそうに笑っていた。



｢だから勿体ないよそんな顔してちゃ｣


｢痛てーよ｣


両頬を引っ張っているホクトの手に込められている力は優しくて、引っ張られているはずなのに全く痛くはない。

でも頬は痛く無いのに痛いと言った。

確かに頬は痛くない。でも今ちょうど目から溢れ出きたものを止められないのは、きっとどこかが痛いからだ。



｢泣くほど痛かった？ごめん｣



そうホクトは言ったけれど、頬を掴んだ手は離れることはなかった。きっとそれが理由ではないことをわかっているんだと思う。

この手が離れてしまったら、俺はこの涙を止めなければならない。だからその手が頬から離れるまでは、この涙をホクトのせいにして、情けなく泣かせて欲しい。



｢痛いんだよバカ…｣


｢はいはい｣



呆れていて、でも優しく包まれるような声。

スピーカーから大音量で流れる音楽といかがわしさを感じさせる言葉が飛び交っていた外の音は一切ない。

ただシャワールームで規則的に水滴が落ちる音と俺たちの声だけがある部屋。

このままこの部屋で死ぬまで過ごせたら、そんな大袈裟なことさえ思ってしまうほどのこの場所は、何人もの知らない人が訪れ、淫らな声を出し、あらゆる場所をところ構わず汚すような場所だ。

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