新たな快盗―――青 ページ5
―――彩side
「彩さんはなんでもできる」
「なぁに、いきなり」
快盗としての訓練中、ぼーっと見ていたAちゃんがぽつりと言った。
「ノエルさんが言ってました。彩さんは呑み込みが早いって。ご飯も美味しかったし…。スタイル良いし。え？弱点どこ？って思いました」
「できないことの方が多いよ。私にはAちゃんみたいに情報集めたり、操作したりはできないわ」
「あー…うん。まぁ。そうなんですけどね」
そんなことないですよ、とか、私なんてまだまだ、みたいな卑下を彼女はしない。褒められたら謙遜せずに照れながら受け入れる。その照れる笑顔が可愛くて、私は彼女のことが好きだ。
「私にできないことはAちゃんがして、Aちゃんにできないことは私がする。そういうものでしょ？」
「そう、なんですけどね」
分かっているものの、はっきりしない返事だ。そういえば先日、変身したいとノエルさんに言っていたからそのあたりのことだろうか。
「ノエルさん、自分を犠牲にしてみんなを助けようとしたんです」
ああ、前にも聞いた話だ。自分を犠牲にして殺されそうになったノエルさんを見て、Aちゃんは何もできなかったと言った。あのとき、戦う力があったなら、というAちゃんの言葉に強く同調してしまう。目の前で大切な人を失う辛さは痛いほどわかる。だからこうやって今は快盗になっている。
「完璧超人になりたい」
「気持ちはわかるわ」
そうであったなら、今頃透真と結婚して、2人で過ごしていたんだろうなと思う。でも、けして今の状況が嫌なわけではない。
「希望はあるわよ。ジャックを探して、コレクションを集めて、大切な人を取り戻したらもう戦う必要ないでしょ」
「どうかなぁ。ノエルさんですよ？」
「…それもそうね」
ノエルさんと過ごしている時間はまだ全然短いけど、今までの話とかノエルさんの話を聞いていても思う。自分より他の人を大切にしてしまう。
「私が戦うのは許してくれない」
「そうね」
「だから今、仕込んでることがあるんです。ノエルさんがもう自分を犠牲にしないように」
「仕込んでる？」
「帰ってきたい場所があれば、帰ってくるでしょ」
ピンときた。
「そうね」
私も同じだ。透真のところに帰りたい。だから、私は無事に、ジャックを見つけなくちゃ。そして私も透真の帰る場所でなければ。
「仕込んでるって具体的には？」
「いちゃいちゃしてます」
惚気ね。
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作者名：わたる | 作成日時：2019年11月30日 22時
