Tear drops.

三十五粒。 ページ35

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それからすぐ、
あるドラマで泣く演技の撮影があった。










私はぎゅっと目を閉じる。






あの人に言われたから腹が立ったけれど、

いつもいつも泣くまでに時間がかかることは
私の悩みのひとつだった。










“あんた、涙の演技下手ね”












その時、ぼんやりと、
瞼の裏に白い世界が写った。



白いペンキをかけられたみたいに
真っ白な壁、床、天井、
正方形のようなドアのない部屋。








その中央に、

蛇口があった。










吸い寄せられるように近づき、
捻ったその瞬間。






蛇口から流れ出す水と同時に
私の頬を冷たい水滴が通り過ぎた。












満足げな監督、
つられて涙しているスタッフや共演の俳優。






私が全てを手に入れた瞬間。














...その頃から相手の俳優に
声をかけられることも増えた。






知名度を上げ、たくさんの作品に出るうちに
初めての彼氏ができて、
そのままその人の家に転がり込む形で
家を出た。








事務所に登録する口座を新たに作り、
働いたお金を初めて自分で使った。













だけどなんとなく上手くいかずに別れ、
また付き合い、そして別れて...




気持ちは満たされないまま
スキャンダル数を重ねていった。






事務所一番の稼ぎ頭。





誰も、何も言えない。








私自身も自分は誰が好きなのか、
どうしたいのかもわからないまま
日々を過ごしていた。






時々母親は今何をしているんだろうなんて
考えたりもしたけれど
一度も帰らず、連絡も寄越さず
気づけばあの街を出てから
5年もの月日が経った。










...ちょうどあの蛇口の白い部屋のように
味気なく変わらない日々に、
色とりどりのペンキを撒き散らしたのは
他でもない君で。




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