自由な君と。- 豪炎寺修也 - ep8 (ページ45)

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帰る場所。side豪炎寺ページ45

あんなに熱い視線を向けられて、Aは揺らがなかったんだろうか。

「ん？へへっ……」

こいつは。

たぶん、いや、絶対。

フィディオの気持ちに気付いてすら居ないんだろう。
目が合うだけで嬉しそうに頬を染めて、花が綻ぶように笑う。

離れまいと服を握りしめて離さない手も、笑った顔も、零れ落ちた涙も。

俺だけに向けれていることに安堵してしまう。

最後に、オルフェウスへ頭を下げれば
フィディオと目が合った。

少しだけ、眉を下げて…笑っていた。

手を振り、転びかけて。
歩き出したAが何かに反応するようにもう一度、振り向いた。

「振り向いてやるな、」

「え？」

不思議そうに、肩を竦めてちらちらと俺の方を見ては俯いて歩き出した。

何も気付かないのはある意味才能にも感じてしまう。

バスを待っている間、ふと。円堂と鬼道の言葉を思い出して笑ってしまった。

「…鬼道も円堂もあながち間違ってないかもな」

「え？鬼道さん？円堂？何かあったの？」

困惑して、大丈夫？と心配そうなAの、繋いだ手を引いて抱き寄せれば緑色の瞳が潤んだ。

鬼道の言っていた、首輪。

猫みたいにすり抜けて自由に渡り歩いてしまう、Aには必要だと言った鬼道の言葉がよくわかる。

円堂が危ないから、と言ったこともよくわかる。

首元に触れれば、ほんの一瞬肩が跳ねて
瞳が揺れて、振り絞った小さな声が愛らしくて。

髪を耳にかけてやれば、耳まで真っ赤に染めた。

「…惚れた弱みかな」

「え、ほんとに何？何の話？」

不思議でたまらないと言う表情に、笑いが込み上げてきてしまう。

首輪なんていらない。

好きなだけ、満足するまで、何処へでも行けばいい。

そうして当たり前のように腕の中に飛び込んできてくれれば、

それで十分だ。

帰る場所を俺の所だと決めていてくれるなら、
それでいい。

陽の当たる場所で、笑っていてくれればいい。

あの日ミサンガに願った様に。

.

宿福に戻れば、お腹も満たされてお風呂でゆっくりと疲れをとったらしい、Aは

オルフェウスでの出来事を一つ一つ話している内に寝てしまった。

「A寝ちゃったね…」

木野が嬉しそうに笑えば、円堂達も安心したように笑った。

抱きかかえ、部屋まで運びベットへと下ろせば。
腕の服を握りしめて、顔を顰めていく。

「や……っ、ごめんなさ、い……！…っごめん、……」

「…A」

まだ何も終わってないんだ。