別れ。 ページ19
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稲妻のシンボルが掲げられた鉄塔。
夕暮れに包まれた街並みゆっくりと眺めれば、遠くで鳥が鳴いている。
さぁぁ…っと風が吹いていく。
「……私」
何をしていたんだろうか。
ぽっかりと抜け落ちたような記憶。
「Aちゃん！！！」
名前を呼ばれ、振り向けば上り坂を駆け上がってくる姿。
息を切らし、星空の様な濃紺の髪が揺れていた。
「心配したんだから！」
階段を駆け上がり、両手を伸ばして抱き締められた。
汗の匂いと優しい柔軟剤の香り。
ゆっくりと瞼を閉じて、その温もりに身を委ねる。
「……ここは、何処ですか？」
伏せた瞳で地面を見詰める少女に、抱き締めていた指先が震えた。
痣だらけの体に、疲れきった瞳。言葉を投げかけても反応なんて見えなくて。全てを恨むようなそんな目をしていた、あの捨て猫のような少女が。
視線が交わると、その瞳は驚く程に穏やかで。
「─────ｯ ここは、稲妻町だよ。
「稲妻町……」
抱きしめる腕にそっと手を回し、少女は瞳を揺らした。
「あなたは、だあれ？」
「…私はA優綺、あなたのお姉ちゃんだよ」
「お姉ちゃん…」
ぽふりと胸の中に体を預け、小さく呟く。お姉ちゃんって、なんだろう。
風が優しく撫でていく。
「お姉ちゃんは妹を守るんだよ。どんなことがあっても、どんな事からだってAちゃんを守るから」
強く抱き締める腕に、安心したように頬を擦り寄せる。
何か大切なものが遠くへ行ってしまったような、切なさが胸を埋めるけれど。
抱き締めてくれるその温もりがひとりじゃないと教えてくれる。
“ごめん”
何か聴こえたような気がした。泣きながら、必死に謝る声が遠くへ霞んでいく。
もう二度と会えないようなそんな切なさ。
瞼を伏せ、何かに別れを告れば。閉じた暗闇に胸が暖かくなるような優しさを感じた。
会いたい誰かが居る。心が求めてやまないほどに。
風がざあっと大きな音を立て、草木を揺らしていけば寒さに震える姉。
なびいた髪が絡み、指先で梳かして。
「もうすぐ春だねー」
まだ蒼い蕾達が揺れる。
日が沈み始めた稲妻町を眺め、うんと小さく返事を返した。
寒いね、と手を繋いで鉄塔を後にする2人。
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「コードM。ミッション��13、記憶調整正常確認。記録観察を終了します」
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作者名：楸 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/hisagi/
作成日時：2023年6月23日 19時
