自由な君と。√24 ep.3 【ｲﾅgo】 (ページ27)

今日:34 hit、昨日:6 hit、合計:6,864 hit

1年生。ページ27

ㅤ
剣城もいつ転んでしまうのかとはらはらと透也の腰を支える。
そんな剣城にお構い無しに透也はAへと一歩、二歩、と歩み寄った。

「まま！」

えっへん。と胸を張り誇らしげに母を自慢する姿に剣城と松風はゆっくりと視線を合わせ、Aを見詰め、再び透也を見た。

「……ママ？」
「ってことは、やっぱり…」

ごくりと息を飲む2人にいつの間にか背後に居たのだろう、狩屋と西園、影山がAを見つけ。

「Aさん…？」

狩屋が声をかけた。ぱっと顔をあげたAは勿論、目の前の狩屋という少年とは初対面だ。

「透也くんまで、何してんの？こんな所で」
「まーたん」
「へいへい抱っこね」

まーたんと呼ばれた狩屋は躊躇いなく透也を抱き上げた。

「まーたんまーたん！」
「へいへい。何？おにぎり食べてたの？」
「ん〜まっ」

口の端についた米粒を拭いながら狩屋は、何となく事情を聞いていたのだろう不安そうなAを見ては溜息をついた。

「あんたも、透也まで困るから笑っててくれない？得意なんでしょ、笑顔」
「んぃ〜〜っ」

頬を抓られAは涙目になる。

「ね！せっかくならA姉も一緒にサッカーやろうよ！」
「え？」
「いいね！やろうやろう！」
「ちょ、ちょっと……あの！」

松風に手を引かれ、Aはグランドの方へと連行されてしまった。残された狩屋は透也を見詰めた。

「ママ、サッカーやるって」
「う？」
「…ママって、本当にあの人がAさんなのか？」

剣城に聞かれ、狩屋はうーんと眉間に皺を寄せた。

「多分間違いないと思うんだけど…」
「…あの」

剣城と狩屋に見詰められたフクさんは、困ったように笑うだけ。
雷門の学生だということも、サッカー部員だということも何となくわかる、けれど。

「きょーちゃ？まーたん？」
「っと、俺達も行こうか剣城くん」
「ああ」

フクさんへと透也を預け、先を駆けていた影山達の後を追いかけていく。

松風に強引にフィールドへと招かれたAは、それでも楽しそうにフィールドを駆け回る松風に次第に微笑み始める。

「いくよー！天馬ぁ！」
「こい！信助っ！！」
「させないよ！」
「狩屋くん！こっちです！」
「輝！」

目まぐるしい勢いでボールを奪い、繋ぎ。奪い。
1年生であり僅かな時間しか共にしていないはずなのに、その連携は熟練に達していた。

それはあの日、ガラス越しに見ていた眩いサッカー。

ㅤ