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龍斗くんの家庭教師もなんだかんだ軌道に乗り始めた6月頃。

私はいつものように授業に備えて講義室でぼーっとしてた。

「A！」

『あ、咲希！おはよ～』

「おはよ。最近カテキョの調子はどう？」

『うん！結構順調。担当してる子が龍斗くんっていうんだけど、すごく真面目な子で。東大めざして頑張ってる。』

「東大ってこりゃまた初っ端からすごい生徒だね(笑)でも順調そうならよかった。頑張ってね。」

それから咲希の担当してる生徒の子の話を聞いて刺激を受けたりして。
無事に授業も全部出席し終えた私は、また龍斗くんのお家に向かった。

『よし、じゃあ今日は英語からやる？』

「…はい。」

いつも通りテキストを開いてやる場所を指示する。分からないことがあったらすぐ聞いてもらうようにしてるけど、基本は1人で解いてもらう。

「……。」

けど、その日の龍斗くんは龍斗くんじゃないみたいで。

鉛筆を握ってもなかなか思うように手が進まない。

『どうしたの？分からない？』

「あ、いや……なんでもないです。ごめんなさい。」

龍斗くんは私に頭を下げて、再び筆を手に取る。
謝って欲しいわけじゃなかったんだけどな……。

『ねぇ、龍斗くん。今日はもう勉強やめちゃう？』

なかなか集中が出来ないんだもん。

「いやっ、大丈夫です。」

『んーん、大丈夫じゃないでしょ？』

龍斗くんはいやいや、と首を振ってまた、シャーペンを持とうとした。けど、私はその手をぎゅっと握って、遮った。

龍斗くんの大きな手を両手で包み込む。

『なにかあったの？龍斗くん、今日おかしい。』

「なにもないです……。」

龍斗くんはチラ、チラ、と私と握られた手を交互に見る。

私はそんな龍斗くんを見て、握っている手に少し力を込めた。

なにかあったのかな。

『、先生に言ってみて？誰にも言わないよ。お母さんにも。』

龍斗くんはぐっと噤んでいた口を開けた。