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「北人くんにはもう会えない」
なんで?
「ごめんね」
待って、行かないで
「……私ね、」
好きな人の背中が遠ざかるにつれて、視界が暗闇に包まれていく。最後、ゆっくり振り返った貴方は何て言ったの。
悲しげな顔で口を小さく動かす彼女に伸ばした手は、虚しくも宙を舞った。
どうして何も言わないで行ってしまうの
俺ってそんなに頼りなかった?
俺のこと……
「……くん。…北人くんてば、」
北人「ん…、」
透き通った声が耳によく響くようになると、暗闇は晴れて代わりに映るのはAちゃんの心配そうな顔だった。
北人「Aちゃん…」
「すごいうなされてたけど大丈夫?」
汗ばむ俺の額に張り付く前髪をさらっと撫でて優しく笑った。「ご飯できてるよ」そう言って部屋を出て行く背中を見送ってから枕元の携帯で時間を確認すれば丁度7時。
窓から差し込む光に導かれるように体を起こすとどっと疲れに襲われる、きっと変な夢のせいだ。
嫌な夢 でまとめきれないほど、苦しさと悔しさと悲しさと不甲斐なさ いっぺんに色んな感情が渦巻いて気持ち悪い。
北人「……最後の朝だったのに」
夢はコントロール出来るものじゃないからしょうがないけど。今日はAちゃん家で目覚める最後の朝だったから、せめてもう少しましな夢見せてよ。
窓から空を眺めながら神様に文句をつけていると、リビングから「北人くん」なんて声が聞こえて慌てて立ち上がった。
北人「……うまっそ〜」
湯気が出るお味噌汁とご飯。焼き魚と昨日の煮物の残り。ネギが入った卵焼きとおひたし。
無類のラーメン好きな俺が和食にハマったきっかけの、Aちゃんの得意料理。
Aちゃんに起こしてもらうのも
いただきます
って2人揃って手を合わせるのも
料理の感想を伝えるのも
夜ご飯のリクエストをするのも
今日で最後。
たった1週間、特別だったはずの毎日が日常になってしまったせいで離れるのは寂しかった。
今俺がしてもらっている事を、明日からタケルさんが毎日してもらうんだと思うと
羨ましくて悔しくて仕方なかった。
「……忘れ物、ない?」
北人「大丈夫」
「もしあったら事務所で渡せばいいもんね」
北人「うん、仕事でも会えるから」
「…寂しいな」
帰り際、少し大きめのバックを持った俺に小さく呟いて、本当に悲しそうに手を振ったんだ。
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# 岩萌(プロフ) - 茂結田さん» 更新通知来た瞬間読みます笑
たまたまそれが流れたんですけどね。切なかった…笑 (2017年10月10日 20時) (携帯から) (レス) id: 32fbb0b927 (このIDを非表示/違反報告)
茂結田(プロフ) - # 岩萌さん» ありがとうございます(T ^ T)ついに、です笑 これからの展開にも是非注目していただきたいです!言われてみれば、人魚姫の物語と似てますね…笑 (2017年10月10日 20時) (レス) id: 9d38b03f33 (このIDを非表示/違反報告)
茂結田(プロフ) - びすさん» ありがとうございます!!これからも切なさを追求していくつもりです笑 北人の性格と雰囲気をしっかり届けられるようにこれからも更新頑張ります!本当にありがとうございます(^^) (2017年10月10日 20時) (レス) id: 9d38b03f33 (このIDを非表示/違反報告)
茂結田(プロフ) - 青葉さん» ありがとうございます!北人の健気さと、この話の切なさを伝えられるようにこれからも更新頑張ります!(^^) (2017年10月10日 20時) (レス) id: 9d38b03f33 (このIDを非表示/違反報告)
# 岩萌(プロフ) - 茂結田さん» いやいや全然待ちますよ!今回もやばかったです、ついにって感じですね!ニヤけが止まらない(//∇//)
人魚姫聴きながら読むと涙出そうになる…笑 (2017年10月9日 10時) (携帯から) (レス) id: 32fbb0b927 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:茂結田 | 作成日時:2017年8月30日 20時