愛する人よ、幸せであれ【煉獄杏寿郎】

幸せが十三滴 ページ13

「もうそんなに泣くんじゃない」



「煉獄さん……」



「こっちにおいで、最後に少し話をしよう」





Aに半ばもたれ掛かるようにしながら、

煉獄は優しく穏やかに微笑んで炭治郎を呼んだ。



少しずつ明るくなる空から、

煉獄のものと思わしき鎹鴉が一羽、車体に降り立った。




煉獄は炭治郎に、

ヒノカミ神楽に関係する可能性のある書物の事を伝えた。



傷が癒えたら煉獄家へ行くように、と伝えていた。





「ふぅ……そろそろ、時間だな」



「師範……うそ、ですよね……？」



「…………A」



「嘘だと、言って、ください、っ！！

　さつま、いもご飯、食べる、って、言いました…！
　沢山ありますし、師範が、居ないと…無くなら、な…」





嗚咽混じりに、Aは煉獄を抱きしめながら乞う。



死なないでくれ、一緒に帰ろう、

他の柱も、自分達の帰還を待っているから、と。





「しなないで……おね、がいです、から……しはん…」



「……俺は、幸せだな」





ポタリポタリと流れ落ちてくるAの涙を指で拭い、

その柔らかな頬に指を伝わせる。



こんなにも、自分を想ってくれた人が居る。

自分の為に、涙を流してくれる人が居る。


……愛した人の腕の中で、最期の時を迎えられる。





「A……最後に、俺の話を聞いてくれるか」



「…っ、……ぅ、っ、なん、ですか……？」



「俺は……君を愛していたのだなと、改めて思った。

　不謹慎かもしれないが、
　君が俺の為に泣いてくれる事がこんなにも嬉しい。

　俺の幸せを、君は作ってくれた。
　君を愛して良かったと、今、心から思える」



「そ、んなこと、……っ！わ、たしだって……！」





しゃくりあげて、上手く喋れない。


上手く、伝えられるのだろうか。

自分が今まで秘めてきた、この想いを。



涙に濡れ、震える唇でAはそっと微笑んだ。





初めてお会いしたあの日から


私も、貴方を心からお慕いしておりました。





そう告げると、煉獄は幸せそうに微笑んだ。


任務を成功させた時より、

さつまいもご飯をお腹いっぱい食べた時より。


その何百倍、何千倍も幸せそうに。





「俺はこれからも、君を愛している。

　君が生きる未来に……どうか、幸せがあるように」





そう言い遺し、彼は動かなくなった。









「…私だって…これから先、愛するのは貴方だけです。

　師範……いえ、杏寿郎さん」

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