愛する人よ、幸せであれ【煉獄杏寿郎】

幸せが十二滴 ページ12

(夜が明ける！！)





上弦の参……猗窩座は、焦りを覚えていた。


東の空が、少しずつ明るくなっていく。

夜が、明ける。





(ここには陽光が差す……逃げなければ、逃げなければ！！)





猗窩座は煉獄の拘束から逃れようとするも、

右腕は彼のみぞおちから抜けない。



こんな死にかけの男に、

何故これほどの力が…一体どこにあるのだろうか。



外野から、声がした。



額に痣のある少年と、イノシシの頭を被った少年。

その二人が、さらに襲い掛かってこようとしていた。





「くっ……！！」




上弦の鬼は無理やり腕を引きちぎり、

首にふたつの折れた刃を突き刺したまま森へ逃げた。



一刻も早く、光の届かぬ所へ。


急げ、急げ、急げ！！





「っぐ、！？」





その刹那、黒刀が鬼の胸部に突き刺さった。



何だこの刀は、背後から飛んできた。



後ろを振り返り睨めつけると、

そこで痣のある少年が目に涙を浮かべて叫んでいた。





「逃げるなぁ！逃げるな卑怯者！！」





その叫びに、額に青筋が浮かんだ。



守られてばかりだったﾓﾉが何を言っている、

どこからそんな偉そうな台詞が出て来るというんだ。





「逃げるな馬鹿野郎！！馬鹿野郎！！卑怯者！！

　お前なんかより煉獄さんの方がずっと凄いんだ！！

　強いんだ！！煉獄さんは負けてない！！

　誰も死なせなかった！！戦い抜いた！！守り抜いた！！

　お前の負けだ！！煉獄さんの、勝ちだぁぁぁ！！！」





何かを叫んでいるが、

鬼はその叫びより、その後ろの光景に視線が行った。





先程の女が、煉獄を抱えて泣いている。


立ち上がる事がもう出来ないであろうあの男を、

その胸に抱いて泣き叫んでいる。





その姿に、かつての、誰かの面影が重なった。





死なないでくれと、悲痛な叫びを上げる。

共に居てくれと、傲慢な叫びを上げる。





あの光景は、何だったか。









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「すまない、なぁ」

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