愛する人よ、幸せであれ【煉獄杏寿郎】

幸せが一滴 ページ1

「ただいま戻った！！！」



「お帰りなさいませ、師範。任務お疲れ様でした」





夜分遅く、炎柱の煉獄杏寿郎が屋敷へ戻って来た。


時刻はもう子の刻を回っているというのに、

継子のAは門の前でずっと師匠の帰還を待っていた。





「よもや、ずっと外で待っていたのではあるまいな！」



「そんなに待っていません。

　亥の刻からですから、三時間程しか経ってませんし」



「よもやよもや！！嫁入り前の娘がこんな暗い中、

　ひとりで待っているものではないぞ！！！」



「師範、夜中ですので少しお静かに。

　屋敷へ入りましょう、お食事は用意してあります」



「そうか！今日の飯は何だ！！」



「さつまいもを頂きましたので。

　今日は師範がお好きな、さつまいもご飯ですよ」



「それは楽しみだ！！！」



「ご用意しますので、師範はお先に湯浴みを。

　鬼の返り血だらけでは、屋敷が血生臭くなります」



「ではそうさせてもらおう！！！」





Aに羽織を預け、

煉獄は風呂場へと早足で向かった。





「…………A…さん……」



「あら、千寿郎くん。起こしちゃった？」



「いえ……兄上がお戻りに？」



「うん、今湯浴みに行ってもらったよ」





襖を開けて厨に顔を覗かせたのは、煉獄千寿郎。

兄よりも垂れ下がった眉が特徴だ。



彼は目を擦りながら、

ふわふわした足取りでAの隣に立った。





「千寿郎くんも、お夜食食べる？」



「そう、ですね……お腹が減ったので、少しだけ」



「わかった。このくらいでいい？」



「はい、大丈夫です……」





盆に食事をのせて居間へと向かうと、

湯から上がったばかりの煉獄が、既に待っていた。



早すぎやしないか、ちょっと。





「師範……ちゃんと髪まで洗いました？」



「うむ！さつまいもご飯が待ち遠しくてな！！」



「……少しじっとしていて下さいね、師範。

　髪が濡れたままでは風邪を引いてしまいますので」



「うむ！承知した！！」





少し大きめの布で、

煉獄のくせっ毛に付く水滴を丁寧に拭き取る。



その様子を見ていた千寿郎が、

申し訳なさそうに、更にその眉を下げた。





「すみません…兄上、こういう所がありますから……」



「それでも、師範は師範だから。

　これも私達しか知らない、師範のひとつの顔だよ」



「……ふふ、ですね」





Aと千寿郎は、顔を見合わせて笑った。

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