『桃花色』 (ページ3)

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あの頭に焼き付いて離れないまっすぐな瞳が今目の前にある。
というか、近い。ものすごく近い。倒れそうになったところを抱き留めてもらった為背中には青年の筋肉質な太い腕が回っていて。

とくりと心臓が大きく脈打ったのを感じると途端にぶわりと顔に熱が上がってくるのを感じた。

「お前顔真っ赤だぞ？熱でもあんじゃねーのか？」

青年は私の様子を見てこてんと首をかしげると、私のかけている伊達メガネを外そうと手を伸ばしてきた。
さすがにばれてしまうと咄嗟に青年の腕から抜け出して少し距離を取る。

「あ、ありがとうございます！」

少し顔を伏せて早口でお礼を言うと、ではこれでと足早にその場を離れようとする。
すると、青年は私の手をつかみ顔を覗き込んできた。

ばっちりと目を合わされ、固まる私に青年は「やっぱり！」と嬉しそうに笑う。

「お前さっき歌ってたやつだろ！」

「えっ？なんでわかっ…！！」

自信満々に言われた一言に思わず反射で「なんでわかったの」と言いかけて慌てて口をふさぐ。
だが青年は完全に見抜いているようで自慢げに「声が同じだった」と話す。

「それに、すっげー奇麗な色だろ？お前の目」

私の目を指さしてにかっと笑う青年。彼はこれを素で言っているのだろうか。
こんなに真正面からきれいだと言われれば誰でも照れるもので、上がってきた熱は冷めないまま私の顔は今頃タコのように真っ赤だろう。

そんな私の様子を見て青年は「やっぱり熱があるんじゃないのか」とじとりと私の顔をまじまじと見てくる。

勘弁してくれという気持ちを込めて大丈夫だからと返すと、青年はまるで私の話なんて聞いていないように自分の船にいい船医がいるからと私の手を引いて歩き出した。

青年の突然の行動の数々に混乱しつつも、断ろうと手を払おうとするがびくりともしない。

「え、ちょっ…だから、大丈夫だって…！？」

「こっちのほうが早ぇーな、つかまってろよ」

青年は突然立ち止まったかと思えば、突然の浮遊感。しばらく思考が停止したがどうやら自分は今青年に抱えられているらしい。姫抱きで。

状況を理解して声を出そうとした瞬間、青年がものすごい速さで走り出した為強制的に口を閉じるしかなくなった。