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「天宮様。到着が遅れてしまい申し訳ありません。ここは私たちにおまかせ下さい」
桜士郎と同じ隊服に身を包み、『隠』の一文字を背負う、鬼殺隊 事後処理部隊の彼女──元い井上は、桜士郎へと詫びの一言を入れ、頭を下げた。
桜士郎は、その影に気がついてはいたものの、振り向くことはせず、ただただじっと、少年の亡骸を見つめていた。
「……敬語は必要ないと言ったはずです。貴女の方が年上ですしそれに────『柱』でもない俺に、敬意など不要なものです」
桜士郎は自身を嘲るような口調で言い放った。
「……そんなこと」
桜士郎の雰囲気が余りにも儚く、神妙だったため、井上は言葉に息詰まる。
そもそも『隠』とは、剣の才に恵まれなかった者が殆どを占める。井上からしてみれば、鬼殺隊士は全員が尊敬に値する存在であった。
特に素人目から見ていても、桜士郎の剣技は別格であった。というより太刀筋が見えない。しかし、流麗かつしなやかな太刀筋に隊捌き。彼の底は誰も知らないと噂されるほどの人物である。
そんな隊士に嘲られては自身の立場が無い。反対に剣の才もない癖に、「そんなことは無い」と慰めの言葉をかけることは余りに不躾なことと感じるのだ。
「カァア!! 急ゲッ!! 急ゲェ!!」
「…………分かっている」
桜士郎は鎹鴉の催促にも、無機質な言葉で返す。彼の肩に鴉が乗ると暫くの間、夜空を見上げてから、少年の前で手を合わした。
「……どうか、安らかに」
その姿を見て井上は、ああやはり彼も人なのだと感じた。鬼殺隊士、特に『柱』などはもう、鬼を殺すために、人であることを辞めたような、そんな化け物じみた強さを持っていた。それは桜士郎も例外なくそうであった。
しかし幾ら強くても、この姿を見ると、彼らが一番化け物なんていう言葉が似つかわしくないのかもしれないと思ってしまう。
「……それでは、
「えっ、あ、あの!」
踵を返し、井上に声をかけた桜士郎は、彼女が声をかける前に瞬き一つで消えてしまった。
井上は心底驚いた。彼が──天宮 桜士郎が、たかが、『隠』の一人に過ぎない私の名を、知っていたことに……。
ヒュウッと寂しげな音を立て、再び夜風は深緑の葉を連れ去って行く。
夜空に輝く幾つもの星は、今まで見た星のどれよりも、一際美しく見えた。
まだ、夜は明けない。
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天霧(プロフ) - とても面白かったです。ハールメンで見させて貰います。 (2021年9月26日 1時) (レス) @page17 id: 8490818b21 (このIDを非表示/違反報告)
しとは(プロフ) - いおりさん» 前作からと長々この作品をご閲覧頂きありがとうございます!部活の大会や模試などが立て込み、中々更新出来ずにすみません。ですが、これからも応援して頂けると嬉しいです。よろしくお願いします! (2020年1月16日 7時) (レス) id: 076c798201 (このIDを非表示/違反報告)
いおり - 前作から来ました。今作もすっごい面白い、、、。これからもお体に気をつけて更新頑張ってください。楽しみに待ってます。 (2020年1月13日 17時) (レス) id: 74a65ddbfb (このIDを非表示/違反報告)
しとは(プロフ) - そう言って貰えると、良かったぁってなります。ありがとうございます!了解です。前作は残していく方向で行きます!更新頑張ります! (2020年1月5日 11時) (レス) id: 076c798201 (このIDを非表示/違反報告)
Sara.(プロフ) - 面白すぎて一目惚れしました。大好きです前作残して欲しいですす更新頑張って下さいぃぃ! (2020年1月4日 23時) (レス) id: 37e203d48e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しとは | 作成日時:2019年12月12日 1時