弟です。 ページ5
……とまあこんな感じでＥ組に来た。
楽しいかといわれると微妙だ。
ただ、あの浅野が知らないことを俺が知っている、というのは少し優越感がある。
少し外の空気を吸いに行こう。
そう思って足を進めると寺坂達の声が聞こえてくる。
本来ならここで帰るところだろうが俺はこっそり盗み聞きをしようと扉の陰に隠れた。
どうやら寺坂が渚に殺せんせーの顔の色の観察を頼み、渚にそれを報告させているみたいだ。
渚の報告途中で寺坂が一方的に暗殺の計画を話す。
その後に「あらゆる面でカスみたいに差別される」「落ちこぼれの俺達が１００億円を手に入れるチャンスなんてこの先一生ない」「このクソみてぇな状況から抜け出すんだよ」などと話した。
そんな状況、あの先生を殺したところで変わらないと思うが。
寺坂は渚に小さな巾着袋を押し付け、中に入ってきた。
当然馬鹿だから俺には気づいていない。
作戦内容を俺にきかれたってことも。
渚は返ってきたタコの先生と少し話した後、校舎に戻る。
その眼はどこか虚ろげで、それにばかり集中していた俺は物音を立ててしまった。
「な、何してるの？阿須汰君。」
さっと巾着袋を後ろに隠してそういう渚。
見つかってしまったものはもう仕方がない。
「さっきの作戦、実行するんですか？」
一瞬驚いた顔を見せた渚。
だが、その後すぐにうん、と短く返事が返ってきた。
ちなみに作戦は渚の自爆だ。
世に言う優しい人とはここで渚の作戦を止めるのだろう。
姉なら、そうしたのかもしれない。
けど、生憎俺はそんな優しい人じゃない。
一年後地球が爆破されるのは御免だ。
自分に運動能力がないことは十分わかってるし、賞金がもらえなくても地球がなくならなくてこれから先も生きられるのならそれでいい。
だから俺は笑顔でこう言うよ。
「そうですか。
頑張ってください、潮田君。」
渚は一つうなずくと廊下を駆けて行った。
あのぐらいの爆弾の爆発を至近距離で受けたとするとあんな風に走れるのはこれで最後だろう。
その分、あの先生にもダメージは与えられる。
最低？
外道？
クズ？
なんとでもいえばいい。
俺は優しい人じゃない。
俺は良い人じゃない。
これが俺だ。
これが俺なりの生き方だ。
多分これからもこうやって生きていくのだろう。
多分これからもこうやって死んでいくのだろう。
それでいい。
俺には『優しい』なんて言葉は似合わないから。
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作者名：相良 夜恵 x他1人 | 作成日時：2017年4月19日 22時
