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……とマア、そんな具合でA子さんを刺し殺してしまったワタクシこと水瀬枢少年ですが。彼はそこで一体全体何を思ったのでしょうか！ シンキングタイムを差し上げましょう、30秒です。5、4、3、2、１……。『どうしよう』？ ノンノン、そんな非凡なことを考えるようでしたらワタクシ今ここでエンターテイナーとしてアナタの前に立っておりません。正解は『美しい』、でございます！ A子さんから吹き出す真っ赤な血液、恐怖で引き攣った表情、つんざくようなソプラノの悲鳴。そして何よりもワタクシが素晴らしいと感じ入ったのは、その光景を目にした周囲の方々が何が起きたのかを理解できずにワタクシとA子さんの方を見つめ、一拍を置いたのちに一斉に声をあげて逃げ惑う姿でございました。それを見た瞬間、ワタクシは自分が今まさに舞台の上でショーを披露し観客の皆様から喝采を浴びるスターになったのではないかと錯覚したのです。
その後は異能を使ってそのままトンズラさせて頂きました。折角素晴らしいと思えるものを見つけたのに少年院行きだなんてたまったものじゃありませんし、捕まってしまったら今まで隠し通してきたカニバリズムという素性がバレてしまうやもしれません。そうなれば少年院どころでは済まないということは幼いながらによく理解しておりました。驚くことに当時のワタクシ非常に機転が利いておりまして、逃げる途中に橋の上から川──前日に雨が降って水かさが増しておりました──に履いていた靴と服に付けていた名札を投げ入れるという偽装工作を咄嗟にやってのけたんですねえ。それが後日発見されたおかげでワタクシは罪の意識から入水した、もしくは逃げる最中に足を滑らせて川に落ちて溺死したということで処理されました。そう、『水瀬枢』という人間は公的に死んだのでございます。
これは後から聞いた話ですが、ワタクシが死んだことになった後に──まあ当然と言えば当然ですが──両親が聴取を受けたり家宅捜索が入ったりしたそうで、その際に両親はカニバリズムであるということが露呈し殺されてしまったとか。今まで必死に息を潜めてきた二人に悪いことをしてしまったと思わなかったワケではございませんが、それよりも自分が生き延びてこの素晴らしい感覚を育てていかなければならないということで気持ちがいっぱいいっぱいでございました。それに、カニバリズムとバレてしまった以上彼らのことは切り捨てるなければなりませんから。
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作者名：白銀刹那 | 作成日時：2023年4月24日 0時
