├ ページ8
〖贖罪の児〗
彼は一度死んだ。15の春、贖罪の児「カプロ・エスピャトーリョ」として。
固有の名前すら与えられずに15年間、彼は死ぬために育てられてきた。それが彼の生まれた村に残る因習であった。
村で信じられていたのはアルジェント教から分派した本山からの認知を受けない異端の宗派。前時代的風習の中で生きる彼らは50年に一度、贄を捧げることで神に許しを乞う。過去にその村から「魔女」が出てしまったことの許しを。
贄は決まって、銀の髪を持つ15の少年である。生まれた時点で運命を決められた贄は、表の世界とは切り離され、隠し通された存在であった。故に、戸籍もなければ教育を受ける権利もない。生命活動を維持できる最低限のものしか与えられない。人間としての尊厳などあるわけもない。死ぬためだけに生かされる存在。
彼は死ぬことが怖かった。来たる贖罪の儀式の直前、彼は逃げ出した。しかし、贄として育てられた体には村から逃げおおせるだけの脚力も体力などあるわけがない。程なくして彼は捕らえられた。四肢を縛られ、すぐさま贄の祭壇に連れ戻される。必死の抵抗虚しく、贖罪の時は刻一刻と迫りくる。そしてついに、儀式を先導する村の長が短剣を振り上げた。「神の裁きである」と、声高らかに叫んで。
贄の儀式を終え村人達がその場を去った後、いったいどうしてそこに居たのだろうか、血だまりの中に倒れた少年を拾った者がいた。幸いにもまだ息がある。今にも消えてしまいそうな命の灯火は、間一髪というところで救い出されたのだ。
その後、その者の通報により村は摘発。贄の儀式は終幕を迎え、少年は回復を待って神聖こども会に預けられることとなる。
すんでのところで生きながらえた少年は、自身が今生きているのは神の思し召しであると信じた。否、そう信じようとした。自身を救った者の声を神の声であると思い込んだ。そうであれと願った。
自分は生きながらえたのではない。あの時自分は確かに一度死んだが、神に新たな命を与えられ再び蘇ったのだと。そして自分を死に追い込んだあの村の者たちこそ、愚かで汚らわしい「魔女」であったのだと。
自分は神に選ばれたのだ。愛されたのだ。まさしく「神の奇跡」と呼ぶのに相応しい存在なのだ。
そう己に言い聞かせることで、彼は永らえた命に価値を見出そうとしたのである。
そんな彼を人はこう呼んだ、「
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:白銀刹那 | 作成日時:2022年8月4日 11時