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「待って、中村さん。」
私が普通の声量で呼び止めようとしても、雑音とも言えるあらゆる方向からの声にかき消されてしまう。
はぐれそうになる。
人混みをかき分けた先で、中村さんの白いTシャツの裾をなんとか捉えた。その瞬間に中村さんが振り返り足を止めた。
二人だけ、時間の進み方が違うようなそんな感覚。
まるで時計の針が止まってしまったような、世界がスローモーションになってしまったような、そんな感覚。
「ん。」と差し出された、丸い爪のついた右手を私は躊躇うことなく手に取った。引っ張られるように一歩、中村さんに近く。
「ごめん早かった？」
「いえ、人混みを歩くの久しぶりで。」
「はぐれないように、手を繋いでいても、平気？」
耳元で囁かれるその言葉に少し動揺したのは、中村さんの声色があの水族館の屋上で聞いた声色のように控えめで僅かに震えを伴っていたからだった。
それでも、以前のような動悸はしなくて、呼吸も乱れることなく落ち着いたままだった。
ゆっくりと頷いて、中村さんの顔色を伺うと、穏やかに柔和に笑んで「行こう。」と言った。
繋がれた手から熱が伝わる。
人の温もりってこんな感じだったかな。
雑踏の中にいるのに、頭はまだふわふわとして、ああ酔ってるからだ、って思おうとしたけれどそれだけじゃないことは私が一番よく分かっている。
私の手を取り、私の目の前で揺れるふわふわの黒髪の主、中村さんのことが好きなんだ、私。
自覚をすればするほど、繋がれた手から熱が伝わってしまいそうで、頬が紅潮するのがわかった。
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黒尾(プロフ) - ちぇりー、さん» コメ、Twitterフォローありがとうございます。もう一捻り、とは思います。最後までお楽しみいただければ幸いです。 (2019年9月28日 8時) (
レス) id: 68c099bb5b (このIDを非表示/違反報告)
ちぇりー、(プロフ) - 初コメです。黒尾さんの描く物語はとても大人で、どこか現実味のあるような、でもどこか心が救われるようなそんな言葉ばかりでとても惹かれました。Twitterもフォローさせて頂きました。続きを楽しみにしています！ (2019年9月28日 0時) (レス) id: 14c95c5e08 (このIDを非表示/違反報告)
黒尾(プロフ) - ちびすけさん» いつもありがとうござます。ありがたいお言葉に救われます。あと数時間お待ちくださいね。 (2019年9月27日 17時) (レス) id: 68c099bb5b (このIDを非表示/違反報告)
ちびすけ(プロフ) - 黒尾さんの紡いだ言葉、心して読ませていただきます。黒尾さんの言う豪雨…こんなかな？あんなかな？と想像しつつ、待たせていただきます！ (2019年9月27日 16時) (レス) id: a303121135 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：黒尾 | 作成日時：2019年9月12日 21時
