66 ページ16
.
「本当に凄い人だね。」
圧倒されたように左手の指先で後頭部を掻いた中村さんが、私の目に前に来るまでに何度となく縦横無尽にふらふらと行き交う人に「すみません。」と小さく謝罪を繰り返しながら人混みをかき分けた。
「私は言いましたよ。凄い人だって。」
人の波は押し寄せたり引いたりしながら私たちの前を流れていった。
近くの屋台で二人分の生ビールを購入し、プラカップで音の鳴らない乾杯をした。
「外で飲むビールは格別だな。」
一口ビールを身体に流し込んだ中村さんはCMみたいに、ぷはーっと息を吐きながら丸眼鏡の向こう側の目をくしゃっとさせて嬉しそうに言った。
遠くでは相変わらず花火の音が鳴り響いていて、夜空は赤や黄色の光を吸収し、建物の隙間から花火のかけらが時折顔を出してた。
地鳴りに近い花火の音がする度に、中村さんは私の耳元でまで唇を寄せて声をかけた。
どことなく気恥ずかしさが少ないのは、人混みのせいか、それとも私があの男を消化し始めたからか、私にはまだ分からなかったが、どちらにせよ、中村さんを一人の男性と認めながらも恐怖心はほぼ皆無と言えた。
ビールのプラカップが二人とも空になった時、二人で顔を見合わせて少し歩くことにした。
人の波は相変わらず寄せては返す、まさに海の波と同じように不規則に私たちを追いやった。
私の半歩前を歩く中村さんの後ろ姿をなんとか追いかけて、はぐれないように少し歯を食いしばってついていく。歩く速度はゆっくりであるはずなのに、人混みで見失いそうになる。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 141人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
黒尾(プロフ) - ちぇりー、さん» コメ、Twitterフォローありがとうございます。もう一捻り、とは思います。最後までお楽しみいただければ幸いです。 (2019年9月28日 8時) (
レス) id: 68c099bb5b (このIDを非表示/違反報告)
ちぇりー、(プロフ) - 初コメです。黒尾さんの描く物語はとても大人で、どこか現実味のあるような、でもどこか心が救われるようなそんな言葉ばかりでとても惹かれました。Twitterもフォローさせて頂きました。続きを楽しみにしています！ (2019年9月28日 0時) (レス) id: 14c95c5e08 (このIDを非表示/違反報告)
黒尾(プロフ) - ちびすけさん» いつもありがとうござます。ありがたいお言葉に救われます。あと数時間お待ちくださいね。 (2019年9月27日 17時) (レス) id: 68c099bb5b (このIDを非表示/違反報告)
ちびすけ(プロフ) - 黒尾さんの紡いだ言葉、心して読ませていただきます。黒尾さんの言う豪雨…こんなかな？あんなかな？と想像しつつ、待たせていただきます！ (2019年9月27日 16時) (レス) id: a303121135 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：黒尾 | 作成日時：2019年9月12日 21時
