63、最後の花火 ページ13
.
行き交う浴衣姿の人々の弾んだ声色とは裏腹に、疲弊し、どこか肩の荷が降りて抜け殻に近いような体感が私を纏った。
夕方5時のチャイムが鳴り響く。
ああここで、誰かがよく頑張ったねって受け止めてくれたら、私はきっとこの堪えてきた涙を押し込まず、吐露できるのに。なんて、考えたりもしたけれど、こうやってどうにかこうにか背筋を伸ばす練習は自分ひとりでしかできないと思いもした。
マンションの掲示板に貼られる広告を見て気づくのは、さっきの浴衣の人の波は近くの花火大会へ向かうのだということだった。
マンションの部屋の窓からはおそらく反対側できっと花火は見えないな、と思っていたらエレベーターが上階へ到着した。
部屋の中は灼熱、と言ってもおかしくないほどの熱を保っていた。
エアコンの電源を入れて、キッチンの冷蔵庫から缶ビール取り出した。熱を持った私の体内へ流れ込み、腑に沁みた。
ビールを半分ほど一気に体内に流し込むと、ベランダに出て洗濯物を取り込んだ。洗濯物がほかほかとしていてまとめてさげあげると、せっかくビールでクールダウンした私を再び熱した。
ベランダから見下ろす街並みはいつもより浮かれていて、きゃあきゃあと笑う子どもや、どこか初々しい雰囲気のカップルに微笑ましくもなった。近くの商店街でも花火大会に連動して祭りをしているようでいつもよりも賑わっているようだった。
行ってみるか。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 141人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
黒尾(プロフ) - ちぇりー、さん» コメ、Twitterフォローありがとうございます。もう一捻り、とは思います。最後までお楽しみいただければ幸いです。 (2019年9月28日 8時) (
レス) id: 68c099bb5b (このIDを非表示/違反報告)
ちぇりー、(プロフ) - 初コメです。黒尾さんの描く物語はとても大人で、どこか現実味のあるような、でもどこか心が救われるようなそんな言葉ばかりでとても惹かれました。Twitterもフォローさせて頂きました。続きを楽しみにしています！ (2019年9月28日 0時) (レス) id: 14c95c5e08 (このIDを非表示/違反報告)
黒尾(プロフ) - ちびすけさん» いつもありがとうござます。ありがたいお言葉に救われます。あと数時間お待ちくださいね。 (2019年9月27日 17時) (レス) id: 68c099bb5b (このIDを非表示/違反報告)
ちびすけ(プロフ) - 黒尾さんの紡いだ言葉、心して読ませていただきます。黒尾さんの言う豪雨…こんなかな？あんなかな？と想像しつつ、待たせていただきます！ (2019年9月27日 16時) (レス) id: a303121135 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：黒尾 | 作成日時：2019年9月12日 21時
