61 ページ11
.
どこに視線をやっていいかわからぬような少し挙動不審な動きをした後で、やっと神崎亨が発した声は、以前のような威勢の良いものではなく、まるで別人とも言えた。
「元気だったか？」
「ええ。」と返事をした後で、あまりにも動揺する神崎亨に違和感さえ覚えた。
「あの時は、失礼なことを申しまして、申し訳ありませんでした。」
深く頭を下げて、できるだけ落ち着いた声色で告げると、神崎亨はぎょっとした顔でこちらを見つめた。
「僕こそ、君に酷いことをした。」
まさかあの神崎亨が「すまない。」と頭を下げるとは、私は夢にも思わなかった。
「君を蔑ろにしたバチが当たったんだ。」
よく見れば僅かにこけた頬が、影を作り、あの頃より痩せたように見えた。
詳しく話を聞くつもりはなかった。そんな同情を買うような憂いを帯びた表情で私を見上げても、私は私を強く持たなければならない。
「何があったか存じませんが、今でも私は貴方を恨んでいます。ですが、前に進むために、私は貴方を消化しなければならない。」
淡々と、もう怖いものはなかった。
顔を見るまでは速くなり続けた拍動も、今こうして情けない顔をするやや衰弱した覇気のない男を前にすると、だんだんと自分が落ち着いていくのがわかった。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 141人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
黒尾(プロフ) - ちぇりー、さん» コメ、Twitterフォローありがとうございます。もう一捻り、とは思います。最後までお楽しみいただければ幸いです。 (2019年9月28日 8時) (
レス) id: 68c099bb5b (このIDを非表示/違反報告)
ちぇりー、(プロフ) - 初コメです。黒尾さんの描く物語はとても大人で、どこか現実味のあるような、でもどこか心が救われるようなそんな言葉ばかりでとても惹かれました。Twitterもフォローさせて頂きました。続きを楽しみにしています！ (2019年9月28日 0時) (レス) id: 14c95c5e08 (このIDを非表示/違反報告)
黒尾(プロフ) - ちびすけさん» いつもありがとうござます。ありがたいお言葉に救われます。あと数時間お待ちくださいね。 (2019年9月27日 17時) (レス) id: 68c099bb5b (このIDを非表示/違反報告)
ちびすけ(プロフ) - 黒尾さんの紡いだ言葉、心して読ませていただきます。黒尾さんの言う豪雨…こんなかな？あんなかな？と想像しつつ、待たせていただきます！ (2019年9月27日 16時) (レス) id: a303121135 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：黒尾 | 作成日時：2019年9月12日 21時
