複雑なもの ページ27
(続)
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「あっという間に帰っちゃったね、渡辺さん」
『・・・うん、そうだね』
川村さんがそう窓を見ている間、私は同じように見ていた視線を、梨がある膝に移した。
彼が店を出て直ぐ、一部始終を見ていた店員さんがくれた袋に入っている梨は、今も甘酸っぱくて美味しそうな匂いを醸し出している。
______それにしても、不思議な人だったなぁ。
梨を一つ掴み、あの時の彼の柔らかい笑顔を私は思い浮かべる。
元の世界やこの世界でも、異性と話してあんなに取り乱した事など、今まで一度も無かった。
彼の優しさのせいか、それとも単に私の体調がどこか悪いのか。
『うーん・・・』
ソファーに背を預け、額に手を乗せて目を瞑る。
川村さんが話しかけてきた時に、熱は引いたので風邪ではないと思うけど・・・原因は結局判らない。
「優花?」
変だなぁ、などと思っていたその時、川村さんの声にパッと目を開き、起き上がる。
すると、丁度お店のレジから歩いて来る彼女の姿が見えた。
私が考え事をしている間に、とっくに会計を終えたらしく、本当に奢ってくれたのだと判る。
『川村さん、ランチ奢ってくれて有難う』
袋を抱えて立ち上がり、歩み寄ってそう感謝を込めて云えば「いいの、いいの」と彼女は笑って手を振る。
その後、休憩時間も終わりに近づいた為、社に戻ろうという話になり、私達は店を出て、
『ただ今帰りましたー』
昇降機を降りて、そう扉を開ければ「お帰りー」とまばらに返ってくる返事に混ざって、「二人共帰ったか」と手帳を持った国木田さんが。
もしこの場に心を覗ける人がいたら、きっと今の私は面白いくらい焦っているのが見えるだろう。
否、此方としては何にも面白くないんだけど。
『・・・国木田さん』
「何だ、俺は今忙しい。用があるなら簡潔に話せ」
『いえ・・・特には無いんですが』
「なら其処に突っ立ってないで、早く仕事をしろ。美月はとっくに作業をしているぞ」
そう云われて見れば、確かに席に着き既に仕事をしている。
______これは、かなり複雑だなぁ。
視線を戻し、話している間もいつも通り手帳に字を書きこみ、キーボードを叩いて手を休めない彼を見て、私はそう思いながら云われた通り、大人しく自分の席に着いた。
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ただの本好き(プロフ) - 番外編を作りました。宜しければリクエストご応募下さい! (2019年2月18日 16時) (レス) id: 1d708256dc (このIDを非表示/違反報告)
Toua(プロフ) - 私は太宰さん!あと、ドストエフスキーさんとか、中也も大好き!賢い所とか強い所に惚れちゃったです(////∧////) (2018年12月5日 0時) (レス) id: 704eb57210 (このIDを非表示/違反報告)
ただの本好き(プロフ) - Touaさん» お返事遅くなって申し訳ございません・・・!そうですね、文ストのキャラは皆魅力的なのでとても迷いますが・・・選ぶなら新旧双黒ですね。あの四人のやり取りが面白くて好きです。Touaさんは? (2018年12月4日 19時) (レス) id: 1d708256dc (このIDを非表示/違反報告)
Toua(プロフ) - ただの本好きさん» 確かに、双黒の戦闘シーンとかは最高ですね!ただの本好きさんの推しは誰ですか? (2018年12月3日 21時) (レス) id: 704eb57210 (このIDを非表示/違反報告)
ただの本好き(プロフ) - Touaさん» 私は全部好きです。アニメでは確かに漫画や小説ではある所が省略されてしまうけど、声があるし戦闘シーンでは絵や文章では味わえない迫力がありますから! (2018年12月3日 20時) (レス) id: 1d708256dc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ただの本好き | 作成日時:2018年11月4日 14時