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それから二人は休みの日や、時々授業が午前までの日等にはAの店に顔を出すようになった
今日は授業が午前まで。折角だから、会いにこうと雷蔵が三郎を誘ったが返ってきたのは「今日は行けない」の一言だった
「学級委員長委員会として、学園長先生に呼び出されたんだ。勘右衛門や、一年生の庄左ヱ門や彦四郎も」
「そ、そっか。なら仕方無いよね」
「今日ぐらい一人で行ったらどうだ?」
「……えっ?」
雷蔵は一瞬硬直すると、ボンッとまるで音が出るように顔を真っ赤にさせた
「それは流石に……」と躊躇う雷蔵。三郎はジトッとした目で見つめると「速く行けよ」と急かした
「行ってきます……」
「こんにちは」
「おう、今日は一人か?」
「はい」
店へ行くと、いつも笑顔で「いらっしゃいませ」と迎えてくれるAの姿が見当たらなかった
代わりに少し前から店に復帰したAの祖父が顔を出した
何度も来るようになり、Aの祖父とも顔馴染みとなっていたのだ
「悪いな、今Aは居ないんだ」
「あ……そうなんですか」
「お前らに触発されたのか、メニュー以外の文字も覚えたいと言って山を越えて隣町まで行った。自分用の筆を買いにな」
話しているうちに、雷蔵達は何をしているのか?という話になり、学校に行っている事をAには教えた。勿論、忍者になる為の学校である事は言っていない
Aは、普通に読み書きや算術を習っていると思っているらしかった。忍術学園ではそういう事も習うため、あながち嘘でもないのだが
目に見えて落ち込む雷蔵を見て、Aの祖父は軽く苦笑いをすると「結構前に出ていったから、そろそろ帰ってくるだろうよ」と教えてくれた
「じゃあ、少し待たせてもらっても良いですか?えっと……今日は僕がきつねうどんで」──
「遅いなぁ……」
ぼんやりと雷蔵が呟いた。うどんは食べ終わり、団子や餡蜜までも食べ終わってしまい、もう出されたお茶をすするだけしか出来ない。もう何杯飲んだかもわからない
それだけ待っても帰ってこないAが心配だ
「……もう日が傾いて来ている。あの、ちょっと探してきます」
「え?あ、おい!」
Aの祖父の制止の声も聞かず、雷蔵は代金だけ置いて店を飛び出した
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作者名:錦浦麗音@媛容 | 作成日時:2015年10月1日 21時