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雷蔵の丼鉢のうどんが無くなった頃、それを見計らってかようやく三郎が自分のきつねうどんを食べ始めた
突然会話が無くなってしまい、雷蔵は何を話せば良いのか悩みそうに腕を組む。だが、足つつかれて三郎に止められた
「あっ!うどん美味しかったで、す!」
「ありがとうございます。普段は祖父が作っていたので……お口に合ったようで何よりです」
Aは褒められたというのに少し悲しそうな笑顔を見せる。雷蔵が気に障ったのだろうか、と戸惑っていると何を考えているのか汲み取ったのかAは何があったのか教えてくれた
「先日、祖父のうどんの味が好きなお客さんに、"美味しくない"と叱られてしまって……。そのせいか最近お客さんが少なくて」
──何てことを言ってしまったんだろう
と後悔し始める雷蔵
「でも、少し元気が出ました。ちゃんと食べてくださる人が居るんだって」
Aは少し照れたように頬を掻いた。気を悪くさせた訳じゃないんだ、と雷蔵は安心したように笑みを浮かべた
「あ、そうだ……。ここ団子もあるんですよね?二人分貰えますか?」
「かしこまりました!」
Aは先程よりもずっと元気そうな様子で返事をすると、立ち上がり店の奥へと戻っていった
「……慣れてきた?」
「ちょっとだけね……」
「最初の焦りよう、見てて面白かったぞ」
「さっさと食べたら?」
「お待たせしました」
店の中に居たのはごくごく普通の時間だけであったが、雷蔵や三郎にとってはとても濃い時間であった。勿論Aにとっても
また近いうちに来る、と伝えるとAは今日一番の輝くような笑顔を見せ、店外まで出てきては二人の姿が見えなくなるまで見送っていた
「悪い子では無さそうだ」
「うん」
「大人しいけど、お祖父さん想い」
「うん」
「……雷蔵。さっきから頷いてしかいないけど……」
三郎が前へ出て顔を覗き込むと、雷蔵はとても幸せそうな表情をしていた。三郎は小さく肩をすくめると、それ以上は何も言わず雷蔵の隣を歩き、二人は学園への帰路に就いた
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作者名:錦浦麗音@媛容 | 作成日時:2015年10月1日 21時