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「ありえない!何がありえないって、一目惚れと言えば直感的なものだろう……?迷い癖のある雷蔵に限ってありえない」
「結構酷い事言ってる自覚はある?」
「すまん」と三郎が軽く謝る
「お待たせしました」
店の奥から声がする。暖簾から顔を出したのは、今二人の間で話題に上がっている少女だった
丼鉢の乗ったお盆を持って、慣れた足つきでやって来る。机の所へ着くと、それぞれ頼んだ物を覚えていたらしく、雷蔵の前には素うどん、三郎の前にはきつねうどんを置いた
「あ、ありがとうございます」
雷蔵が恐る恐る声をかけると、少女は少し驚いたような顔をすると「いいえ、こちらこそ」と笑顔を見せた。雷蔵は照れて赤くなった顔を見せない為か、慌てて「いただきます!」とうどんをすすり始めた
そんな雷蔵の様子を見ていた三郎はニヤリと笑うと、店の奥に戻ろうとする少女の腕を掴んだ
「あの……?」
戸惑う少女と反対に三郎は楽しげな声で「お姉さん、一人ですか?」と問う
いつまでも離す気配の無い三郎の手を見ると、慣れているのか諦めた様子で少女は苦笑いを見せた
「本当なら、おじいちゃ……祖父と二人でこの店はしているのですが、生憎その祖父が腰を痛めていて。しばらくは一人で」
「それは大変ですね……」
気付けば少女は三郎の隣の席に座っており、いつの間に……と唖然としている雷蔵を余所に二人の会話は続いていく
「見た感じ私達と歳が近そうですけど、おいくつですか?」
「十四になります」
「やっぱり!私達と同じだ」
それを聞くと、歳が同じなのがそんなに嬉しいのか少女の顔が途端に輝いた。理由を尋ねると『周りが年下ばかり』らしく、同年代というものが新鮮らしい
「あ……私はAと言います」
Aと名乗った少女が座りながら頭を下げた
「私は鉢屋三郎です。恥ずかしがってまだ一言も話していないのが不破雷蔵です」
「三郎」
ようやく口を開いたかと思えば、それは少し怒りを含んだ声であった。軽く叱られた三郎は小さく舌を出しておどけてみせた
そんな二人を見てAはクスクスと小さく笑っており、また雷蔵は黙ってしまった
「……あれ?そういえば、お二人共名字が違うんですね……?」
少し遅れてAが雷蔵と三郎の顔を不思議そうに交互に見つめた。と言っても、雷蔵の顔は俯き気味で中々見えないのだが
別に双子ではない事を伝えると、Aはかなり驚いたように目を見開いていた
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作者名:錦浦麗音@媛容 | 作成日時:2015年10月1日 21時