【MHA】私が「神」とは世も末だ

泥沼試合勃発 ページ8

バスの中は静かだった。
いつもこんなに緊張感があるのだろうか。自然と掌に汗が滲んだ。

数分でフィールドに着き、バスを降りると、そこにはどことない泥臭さが漂っていた。
フィールドは野外、湿った林のような場所だった。中学生の頃習った"熱帯雨林"のようだ。
見上げると曇天が広がっていた。あまりよろしくないスタートに感じられる。

『それぞれ開始地点に着いたな。じゃ、戦闘訓練……』

突然の無線に、思わず神経が強ばる。
それに気付いたのか、尾白君が「頼っていいからさ」と笑った。目立たなそうとか思ってごめんなさい、かっこいいですはい。

『始め』

戦闘訓練開始のブザーが鳴った。
轟君がフィールドの最北部、私達がフィールドの最南部からのスタートとなる。
1人1本配られた拘束具で、相手を拘束した方が勝利とのことだ。
しかし、轟君にはそれが2本配られており、私達2人を拘束しなくてはならない。

……それにしても、どう動いたらいいかわからない。おずおずと尾白君を観察してみる。
すると、尾白君もこちらを観察していたらしく視線がぶつかった。

「あのさ、神士さんって、半径10m以内の世界の仕組みだったらなんでも変えられるの？」

尾白君が、自分の顎に手をあてたまま訊ねてきた。「まぁ恐らく」と答えると、尾白君は静かに切り出した。

「これから、轟と半径10m以内まで距離を詰めようと思う。今回は野外だし、壊しちゃまずいものもないし、俺ら以外に人がいる設定でもないし、轟もバリバリに攻撃してくるはず……
まぁ、その辺は俺がなんとかする。出来るだけ神士さんに及ばないようにするから、念じて欲しいんだ。"轟が動かなくなる世界"を」

戦闘訓練開始から早いこと1分30秒、轟君は未だ姿を見せていない。
それにしても、このフィールドは少なめに見て半径500mはありそうだ。申し訳ないけど、二つ返事は出来ない。
……けど。

「……わかった」

今日編入したばかりだし、生憎コスチュームも届いておらず体育着だし、サポートアイテムも特にないし。言い訳ならいくらでも出来る。
どうせならやってやれ。失敗したらしたで期待が薄れてラッキーだ。
尾白君は強く頷いてから、「行こう」と私を手招いた。尾白君の後を追い、私も木陰に身を隠しながら進んだ。

念じろ一時停止→←落胆は置いていけ

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す