ページ ページ12
「天文台の入場料くらいなら、私が出してもいいけれど……それくらいの手持ちはあるよ」
「僕のためにお金を使いたいとは、いい心がけだね。でも、今回のところは、遠慮しておくよ。
建物の中で望遠鏡を覗くより、僕的にはお勧めのスポットがあるから――と。こっちだよ」
相川は、道から外れ、丘を登るように移動する。短く刈られた草を踏み分けながら、私は相川の足取りを追う。
中腹辺りで、相川は足を止めた。
そこにはビニールシートが敷かれていた。
なるほど、準備とは、このことか。
「目を閉じて、横になりなさい」
ここまで来れば、もう逆らう理由も抗う必要もない。相川の意図も読めた。
私は言われるがままに目を閉じて、ビニールシートの上に横たわった。頭から手が離れる。
そして、私の隣に、誰かが寝転ぶ気配があった。
誰かと言って、これで相川以外の人間だったら、とんでもないイリュージョンだけれど。
「目を開けていいよ」
言われるがまま。
そして、満天の星だった。
「……………………………………………うわあ」
正直。
綺麗な星空よりも、星空を見て綺麗だと思うような感性が、まだこの年齢になっても残っている自分自身に、驚いた。
人間、こんなに感動するものなのか。
降るような星々。
野暮な分析をすれば、寝転がっているからというのも、あるのだろう……視界の全てが、余すところなく星空というのが、普通に素晴らしい。
こんな風に、自分が感動する理由を探して、なんとか自意識を保とうとする辺りが、もう素直じゃなくなってるなあと思うが、ともかく、相川が、爪を突き立ててまで、私に上を見せようとしなかった理由がわかった。
まず最初に、この空を、こういう視界で、相川は見せたかったのだ。
いいところ。
確かに、こんなにいいところはない。
あー……なんだか、ものすごく報われた感じだ。
ここまでの苦労が水に流されていくのを感じる。
「どうかな――Aちゃん」
隣の相川が、私にそう訊いた。
彼も――同じ空を眺めているのだろう。
「すごい――正直、言葉にならない」
「語彙が足りないんだね」
感動に水を差す毒舌だった。
しかし――その程度で。
彼の吐く毒ですら、この空の下ではその程度で。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 10人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
灰猫(プロフ) - きゆかさん» 初コメありがとうございます！ヮー！！更新遅くてすみません……！！これからも読んで頂けると幸いです！！ (2022年9月7日 21時) (
レス) id: 0b53369cd7 (このIDを非表示/違反報告)
きゆか(プロフ) - 初コメ失礼します、更新うれしいですありがとうございます…！！いつも楽しく読ませていただいてます！これからも応援してます✨ (2022年9月7日 20時) (レス) @page48 id: 533f2abba6 (このIDを非表示/違反報告)
灰猫(プロフ) - realさん» わー！いつもありがとうございます！！これで化は終わりなのでせめて最後まで頑張ります！！ (2022年8月15日 0時) (レス) id: 0b53369cd7 (このIDを非表示/違反報告)
real(プロフ) - 毎回コメント失礼します。あ、めちゃくちゃ待ってましたキャットターン()今回も最後まで楽しませて頂きます！ (2022年8月10日 19時) (レス) id: 3d1cb866c0 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：灰猫 | 作成日時：2022年8月2日 17時
