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会話が途絶えたところで、椎名は頬を染めて、俯いてしまった。
蛇の怪異から解放されたところで、全身にまとっていたあの陰鬱さは若干薄れたようだが、しかし生来のものであるらしいそのもの静かさまでは、変わらないらしい。
なんとなく。
私は椎名の前髪に、手を伸ばしてみた。
「……お？」
空振り。
私の手は空を切っていた。椎名はうつむけていた顔を、さっと横に動かし、私の手をかわしたのだった。
更になんとなく、私は彼の前髪を追ってみたが、今度は一歩後ろに下がることで、椎名は私の追撃をかわす。
「……な、何、かな……？」
「何っていうか……」
そんなに嫌がらなくても……。
普段の椎名の大人しい印象からは考えられない機敏な動きだ。前髪が目に入ると視力が悪くなるというが、椎名にとってはそんなこと、まったくお構いなしらしい。
「……うーむ」
試みに。
私は、反対側の手をすっと下げて、椎名の制服、シャツの裾を、軽くつまんでみた。
いや、椎名が前髪に触れられるのをかわす動きが、スカートめくりを嫌がる小学生女子みたいだと思ったので、ならこうすればどうするのか、ちょっと実験してみたくなったのだが。
しかし椎名は、こちらの手には何の反応も示さなかった。不思議そうに、きょとんと首を傾げているだけだった。
昨日も思ったことだけど……。
この子、中学生にしては純過ぎるな……。
防御するところ、色々と間違ってるよ。
私はすぐに、制服をつまんだ指を離した。
「お前を相手にするのは、なんだか女としての器が測られている感じがするな……」
「？……オレが、無口だから？」
「そうじゃないけど……」
無口、か……。
ん……そう言えば。
「そうだ、椎名――ちょっと訊きたいことがあるんだけど、いいかな」
「え……何？ 訊きたいことって」
「いや、大したことじゃないんだけど……そらるの奴」
「そらる？」
「ほら、あの学習塾跡にいた、黒髪のちっちゃくて可愛い男の子。名前、教えてなかったっけな。
まあいいや。とにかく、あの子、私がいないときに、お前に何か喋ったりした？」
「…………？」
質問の意味を捉えかねたように椎名は怪訝そうな顔をしたが、とりあえずはそのまま、
「ううん」
と、否定の返事を口にした。
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作者名：灰猫 | 作成日時：2022年7月24日 23時
