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「なんなら、それ、私が請け負ってやってもいいよ？ 月崎に礼を言わなきゃいけないってんなら、私もそうだし」
椎名の件――椎名の蛇の件。
もしも月崎が一枚噛んでいてくれなければ――私だって今、果たしてここでこうしていられたかどうか、怪しいものだ。
同じことで何度も謝ったり何度も礼を言ったりするのは、される方からしてみれば鬱陶しいものだろうが、それでも、時間を置いて互いに気分が落ち着いたところで、もう一度だけ感謝の気持ちを表しておくくらいのことは、許されるのではないかと思う。
「でも……そんなの、Aお姉ちゃんに悪いし」
「悪いとか言わないでよ。私はそれくらいのこと、用事だなんて思わない。任せときなって」
「そう……じゃ、Aお姉ちゃんに頼もうかな」
と、椎名は、手に提げていた鞄から、小さく折りたたまれた二着の衣装を取り出した。
ブルマーとスクール水着だった。
「………………」
思いつかないも何も、完全に記憶から消していた……。
「洗濯して綺麗にしたから、月崎さんに会えたら返そうと思ってたんだけど……でも、Aお姉ちゃんから返してもらえるなら、そうして欲しいな。早い方がいいと思うし」
「うん……」
ハードル高っ……。
どんな試練だよ、これ。
自分が通う高校の前で、男子中学生からブルマーとスクール水着を受け取る女……こんなもん知り合いに見られたら、『Aお姉ちゃん』を飛び越して、私のニックネームは間違いなく『変態』だ……！
しかし成り行き上断れない！
もしもこれが誰かが私に対して仕掛けた罠だとしたら、何て巧妙なんだ……！ 神は私に何を為させようとしておられるんだ！
「じゃ、じゃあ……確かに」
こんなものを受け取る機会は二度とないだろうなと思いつつ、私はその二着の衣装を、椎名から受け取った。
どうしてだか椎名は、手渡すそのときに、一瞬、躊躇するような仕草を見せたが(やはり自分で渡すべきなのかどうか、迷ったのかもしれない)、しかし結局、最後にはその手を離した。
うーん。
しかし、なんだか変な展開だ。
今日は――記念すべき日になるはずなのに。
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作者名：灰猫 | 作成日時：2022年7月24日 23時
