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「うん……だから、月崎さんにも、改めてお礼、言いたかったんだけど……」
「？ なんだよ、月崎、まだここ通ってないの？
ふうん、私達のクラスが最後だと思ったけどなあ……まあ、文化祭に一番熱中できるのって、二年だからね。
一年じゃ勝手がわからないし、三年は受験があるし。
あいつもあいつで、好むと好まざるとにかかわらず、クラスの中心に立っちゃいそうな奴だから……」
「う、ううん。月崎さん、つい三十分くらい前、ここ、通ったの」
「ああ、そうなんだ。じゃあ、そのとき声かけなかったの？ 友達と一緒とかだかで……あいつ友達多そうだもんなあ」
「ううん……一人だったけど……」
複雑そうな表情を作る椎名だった。
「月崎さん、オレが声をかける前に、眼にも止まらないものすごいスピードで走り去っていっちゃったから……」
「…………」
急ぎの用があったんだな、きっと……。
大方、昨日買ったという大量のボーイズ ラブ小説の積み残しを、一気読みするためとかなんとか、そんな感じの素敵極まりない用事だとは思うが、知り合いに声をかけるのもためらうような椎名のことだ、走っている月崎の前に立ちふさがるなんて、できるわけもない。
「轢かれるかと思っちゃった……」
「まあ、わかるよ……その気持ちは本当によくわかる。私も疾走中の月崎に、話しかけようとは思わない」
「うん……宅急動みたいだった」
「どうしてわざわざビックリマンに登場するメインキャラクターであるところのヤマト王子の必殺技で例えるんだよ！
逆に分かりづらい上に、突っ込みもここまで説明的になっちゃったよ！」
「うん……オレも通じるとは思わなかった」
本当に意外そうだった。
やれやれ、どうやら私の突っ込み担当としての力量を、彼は見誤っていたようだ……とか、得意げになるようなシーンでは、勿論なく。
「しかし、ビックリマンって、今時の男子中学生が知ってるもんなの？ リニューアル版のチョコレートがあるからキャラの名前くらいならまだしもだけど、必殺技の名前なんて……」
「ＤＶＤで見たの」
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作者名：灰猫 | 作成日時：2022年7月24日 23時
