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「困ってるっていうよりは、私は今、とてもとても疲れてる感じだよ」
「確かに、いろはにへとへとみたいね」
「いろはにへとへと？ 面白いね、それ……」
しかし、笑ってやる気になれない。
心に余裕がないのだった。
ともかく。
「ねえ相川……お前、本当にどういうつもりなの」
「相川？ それは僕のことを指しているのかな。それとも、お母さんのことを指しているのかな」
「………………」
この男……この男だけは……。
いや、落ち着け、私……今思っていることをそのまま口にしたら別れ話になってしまうぞ……。
「お母さん。Aちゃんが呼んでいるよ」
「真冬くん！ 私が呼んだのは真冬くんです！」
さすがに呼び捨てにはできなかった。
真冬くん。
つい先日、月崎と行なった『下の名前で呼び合う』イベントを、実際の恋人とはこんな風に迎えることになるなんて、一体誰が予想しただろう……。
「何かな。Aちゃん」
「…………」
お前は変えないのね。
別にいいけどさ。
「で、真冬くん。改めて訊くけど……聞かせてもらうけれど。お前、どういうつもりなのさ。何を企んでんの」
「何も企んでなんていないよ。そんなことよりAちゃん。
黒岩涙香という高名な推理作家がいるんだけれど、この人の名前、分解すると『黒い』『悪い』『子』になるんだよ。
これってわざとやってるんだと思う？」
「どうでもいいよそんな話題！ 黒い子も悪い子もお前のことだ！」
「親の前で酷いことを言うね」
「うっ……！」
トラップだった！
引っかかっちゃった！
「お母さん。あなたの息子さんは黒い子で悪い子らしいよ」
報告してるし……。
相川母は、それに対して相変わらずの無反応。
黒い子で悪い子のこういった所業には、相川母は案外、慣れっこなのかもしれなかった。そうだよなあ、考えてみれば、自分の子供なんだもんな……。
じゃあ、私があまり取り乱しても仕方ないか。
いいように踊らされてばかりでも曲がない。
「あらら。また静かになっちゃったね。少しいじめ過ぎたかな」
相川は私の方を向いて言う。
「蒼音ちゃんって反応がいいから、ついつい凹ましたくなっちゃうんだよ」
「その台詞に何より凹むよ……」
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作者名：灰猫 | 作成日時：2022年7月24日 23時
