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ならばそれよりも、と、私は恐る恐る、運転席の方を、横目でうかがう(恐る恐る過ぎて、とてもじゃないが正面向きには見れない)。
相川母は、しかし、全くと言っていいほどの無反応だった。一心不乱に、運転に集中している。クールな人だ……。
どうやらこの方向、ジープは高速道路に向かっているらしい。
高速道路……かなりの遠出という感じなのか。まあ、そうでなければ、さすがにさすがの相川も、デートに母親を連れ出そうとは思わないだろうが……。
十分後には、予想通り、ジープは高速道路に入った。もう逃げられない。
いや、そうでなくとも、最初から、さすがに逃げるつもりはないけれど。
「Aちゃん、本当に静かだね。とても口数が少ないよ。いつもはもっとお喋りしてくれるのに、今日は機嫌が悪いのかな？」
「機嫌がどうとかじゃなくてね……」
「ああ。頭が悪いんだね」
「混乱に乗じて言いたいだけのことを言ったな！」
「Aちゃんは突っ込みだけはいつだって腕白なんだね。いいよ。
じゃあ親切にも、僕から話を振ってあげます。Aちゃんはそれに応えてくれればいいよ」
相川は言った。
「僕のどういうところが好き？」
「好きじゃないところははっきりしてるよ！」
何がしたいのだろう、こいつは。
というか、そもそも今回のこのデート自体が、私を陥れるために仕組まれた壮大な嫌がらせなのではないかという気すらしてきた。
逃げたくなってきたぞ。
「くそう……本気で楽しみにしてたのに……夢が叶ったくらいの気持ちでいたのに……！」
「夢だなんて、大袈裟な」
相川は無表情で言う。
「知ってる？ Aちゃん。人に儚いと書いて……あれ、なんだったかな」
「多分私だね……」
人に儚いと書いて『あららぎ』と読む。
人儚《あららぎ》。
新しい漢字の誕生だった。
「困っているんだね、Aちゃん……ああ、そんなAちゃんに、頑張ってと応援することしかできない自分がもどかしいよ」
「いや、ごめんなさいと謝罪することもできると思うけれど……」
しかし。
謝ってもらってもどうにもならない。
謝って済むなら警察はいらないのだ。
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作者名：灰猫 | 作成日時：2022年7月24日 23時
