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相川も私服。
前髪をピンで留めている。
学校では、食事中と体育の時間以外はストレート(最近は、体育にも普通に参加するようになった相川である)、校外では原則として髪をいじるというのが、相川の中のルールである。
前髪を留めていると、どことなく委員長・天宮とイメージがかぶるのだが、それも含めて、動きやすそうな、お洒落なファッションだった。
これからどこかに出掛ける感じの服だ、と思ったら、案の定、
「じゃあ行くよ。ついておいで」
と、彼は言った。
しかし、案の定なのはそこまでだった。
そこからは予想外の展開が待っていた。
相川真冬は、自身の住処であるアパート民倉荘の前に駐車されていた一台のジープへと、私を導いたのだった。
クルマで移動。
それはいい。
この車社会において、何の質問も何の文句もない。
問題は、私も相川も、校則によって免許の取得を厳格に禁じられており、四輪免許はおろか原付免許すらも持ち合わせていないというところだった。
必然、私が乗り込むのも相川が乗り込むのも、ジープの後部座席だったのだ。
では運転席にいるのは誰か。
相川真冬の母親だった。
「…………………………」
初デートに、彼氏の母親が同伴って……。
拷問みたいなデートだ……。
何の記念だよ、これ。
車内全体にどう好意的に見ても気まずい雰囲気が漂う中、挨拶もそこそこに、ジープは出発した。
そこに至っても、私はまだ目的地を聞くことはできなかった。というか、目的地など、今となってはどうでもいい。
当然、相川母とはこれが初対面。
これで相川母があけっぴろげで気さくなお方だったならまだしも、椎名の例を引き合いに出すまでもなく、私にとっては最も対応しづらい相手である、寡黙なお方だった。
年下の男の子で寡黙ならともかく、年上の女性で寡黙とは……。
仕事帰り――いや、まだ仕事中であるかのようなきっちりした格好で、相川母は、静かにハンドルを操作している。
確か、外資系の企業に勤めているとか、そんな話だったっけ……。
見るからに堅そうな人だ。
被害妄想もここに極まれりという感じだが、私なんか、この人からはどんな理由で怒られても仕方がないような空気がある。
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作者名：灰猫 | 作成日時：2022年7月24日 23時
