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「僕とデートをしなさい、Aちゃん」
「最終的に、そう落ち着くか……」
妥当と言えば妥当なところだった。
らしいと言えば、これ以上なくらしい。
「何か文句……いや、何か質問はある？」
「ありません……」
それじゃあ僕は、今日の放課後、適当に口実を作って先に帰って用意をしておくから、Aちゃんは文化祭の準備が終わり次第、僕の家まで来てね――と、相川はまとめて、それから、まるで何事もなかったかのように、食事へと戻った。
デートを優先して文化祭の準備を当然至極のようにサボろうとする辺りが相川真冬だったが、勿論、私の立場として、相川とデートできることが、嬉しくないわけもない。
しかも、時間にして夜からのデートというのが、なかなかどうして意味深長だ。
どこに行くか、何をするのか、どういうプランニングなのかは僕に任せておいて、と相川は言った。
取り立てて追及するような場面でもないと思ったので、そこはそれ、お楽しみということにしておいて、私は心の中で、ガッツポーズを決めたのだった。
長い道のりだった……。
まさか彼氏からデートの約束を取り付けるというだけの行為が、ここまでの労力を伴うものだなんて、ついぞ思いもしなかった……。
勢い余って彼氏の後輩と先にデートをしてしまうほどだったが、結果よければ全てよし。
ともあれ。
六月十三日は、恋人と初めてデートをした、私にとって記念すべき日になるはずだった――
のだが。
その数時間後。
放課後、文化祭の準備を終え、帰ろうとしたところ、正門で、下の弟の昔の友達であるところの椎名爽に待たれていて、ブルマーとスクール水着を受け取り、そこを天宮に見つけられ、
「頼む！ 五万円払うからこのことは誰にも言わないでくれ！」なんてリアルで切実な懇願をし
(勿論その後、天宮から『尊厳ある人間を買収しようだなんて、恥を知りなよ』とマジ説教を食らった。学校の正門でブルマーとスクール水着を抱えたまま同級生に叱られる私)、
自転車のペダルを気持ちいつもより速めに漕ぎながら家に帰って、制服からそれなりの服に着替え、財布と携帯電話だけを持って、折り返し、相川の家へと向かった。
到着する頃には七時半を越えていた。
ちょっと遅かったかなと思ったが、しかし、相川は、「思ったより早かったね」と言った。
そして「まあいいや」とも。どうも、あんまり早く来られても、困るようだった。
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作者名：灰猫 | 作成日時：2022年7月24日 23時
