ページ ページ25
というか、それ以上に驚きなのが――デートの申し出が、相川の方から、こうもはっきりと、しかも唐突に、あったことだ。
それこそ、付き合い始めて一ヵ月。
私がどれだけ露骨に、時には大胆に誘っても、食指を動かさなかったこの男が……動かざること風のごとく動かざること林のごとく動かざること火のごとく動かざること山のごとしな、相川真冬が……自ら、デートだと？
これまで、それこそ後輩の月崎志麻が言うところの『プラトニックな関係』を頑なに、さながら暗黙の条約でもあるかの如く維持してきた私達が、ついにデートをするというのか？
どういう心境の変化なんだ？
さっきの『あーん』ではないが、この男、またぞろ何か企んでいるのではないだろうか……自他ともに認める彼氏からデートの申し出があって、ここまで疑心暗鬼になる自分というのもどうかと思うが、しかし、これがそれに値するくらいの驚きなのは、確かだった。
「何さ」
相川は平坦に言う。
「嫌なの、Aちゃん」
「いや、嫌じゃないけど……」
「そう言えば、聞いたよ」
不敵な表情を見せる相川。
それが彼氏に見せる表情なのだろうか。
「志麻くんとのデートは、Aちゃん、随分楽しかったみたいじゃない。
親密になっちゃって、昨晩なんか、志麻くんと一晩明かしたんだって？」
「ああ……なんだ、聞いたっていうのは、月崎から聞いたってこと？」
「うん……あの子、随分と喋り渋ったけれど」
「………………」
何故意味ありげに喋り渋る……！
後ろめたいことはないんだから、包み隠さずちゃんと喋れよ！
隠すことによって、逆に何かあったみたいな感じになるだろうが！
中途半端に口が堅い奴って、一番迷惑なんだよなあ！
「阿良々木先輩を責めないで欲しいと頼まれたよ」
「どうして私はあいつに庇われてるんだ!? 何も悪いことなんてしてないのに！」
潔白だ！
無実だ！
濡衣だ！
「ともあれ」
相川は言った。
「あの子とAちゃんが仲良くなったみたいで、よかったよ」
「…………」
それは――どういう意味なのだろう。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 9人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：灰猫 | 作成日時：2022年7月24日 23時
