００３ ページ23
六月十三日は私にとって記念すべき日。
に、なるはずだ。
それは、ブルマーやらスクール水着やらには一切合切関係なく、ことの発端は、先月の母の日、五月十四日から付き合っているところの私の彼氏、相川真冬のこんな一言だった。
「デートをします」
当日の昼休みのことだった。
中庭のベンチで、見た目仲良く並んでお弁当を食べていた最中の、それは唐突な一言だった。箸で持ちかけていた卵焼きを取り落とすほど、私は呆気に取られてしまった。
はい？
今この男、なんて言った？
相川を見る。
夏服――である。
カッターシャツの短い袖を更に折りたたんでピンで留め、ノースリーブっぽくしているのは、最近の我が校の男子の間での静かなブームである。
相川はそういう時流に乗ることをよしとしない男子生徒ではないかと、私は勝手に思っていたが、割とそんなことはないらしい。
ノンポリだ。これは新しい発見だった。
ちなみに天宮あたりは、口うるさく言いこそしないものの、そういう時流には乗らない。同じ優等生でも、それが筋金入りかそうでないかの違いと言ったところだろう。
もっとも、相川にしたところで、ズボンの長さは、相変わらずだが。
食事中ということで、後ろ髪と、最近伸びてきたらしい前髪を上向きに、相川はそれぞれ、赤いゴムで留めている。
見ようによっては間抜けな髪型だが、綺麗な額が惜しげなく晒されているのは私としては非常に印象がいいし、また、相川がそうした『油断した』みたいな姿を見せてくれるのは、なんだか打ち解けてきた感じがあって、気分的には悪くない。
「えっと……あれ？」
なんて、私が反応に困っていると、相川は、
「ふむ」
と、自分のお弁当箱から、白米の部分をちょっとだけ箸で掬うようにして、それから、その白米を、私に向けて差し出してきた。
「あーん」
「…………………！」
うわ……っ！
何、このシチュエーション……！
漫画とかでよく見るラブラブな恋人同士のラブラブイベントの一つとしてよく知られているけど、なんだこれ、全然嬉しくない、嫌だっていうか、むしろ普通に怖い！
相川とくれば、相変わらずの平坦な無表情だし……照れくさそうなはにかみ顔とかでやってくるなら全然歓迎なんだが、相手の感情が読めないっていうのは、この状況ではかなりキツい……。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 9人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：灰猫 | 作成日時：2022年7月24日 23時
