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「えっと、その、ドラえもんの秘密道具――」
万策尽きて、最後の手段としてドラえもんトークに持ち込もうとしたところで、しかし、それも半ばで天宮が、
「あ、痛」
と、呟くように言ったので、遮られた。
痛いって……私がか？ 高校三年生にもなってドラえもんトークを(しかも窮余の策として)持ち出してきた私が痛いというのか？ 中学生なら許されるのに？
なんて、一瞬、被害妄想に包まれかけたが、そうではなく、天宮は頭部に指先で触れるようにしていた。つまり――頭が痛いのだろう。
ああ、そう言えば、その後のごたごたでなんだか有耶無耶になっていたけれど、天宮は昨日もそんなことを……。
「ちょっと――大丈夫？」
「うん……うん、大丈夫」
気丈にそういってみせる天宮。
私に向けるその笑顔には、確かに一片の曇りもないが――だとすれば、さっきの天宮の言葉は、偽りだったということになる。
嘘なんかついたことがない。
そんなの――嘘じゃないか。
「保健室――いや、春上先生も、この時間じゃ帰っちゃってるか。じゃあ、病院――」
「大丈夫だって。大袈裟だなあ、Aちゃんは。こんなの、家帰ってちょっと勉強すれば、治っちゃうんだから」
「お前は本気で、勉強すれば頭痛が治ると思ってるのか……？」
そういうところは、素直に変な奴だ。
考え方が違う。
「最近よくあるって言ってたじゃんか。なんかヤバい病気とかだったらどうするの？」
「心配し過ぎだよ。結構気が小さいところがあるよね、Aちゃん。
そんなことより、Aちゃん。俺が言ったこと、ちゃんと理解できた？
理解できただけじゃ駄目なんだよ。実践しなきゃ」
「ああ、わかってるよ」
そんなことより、か。
自分のことより他人のこと。
こういうところも――変な奴だと思うけれど。
でも。
「気を遣わせてばかりで悪いね」
「別にいいよ。でも、だからとりあえず、俺の言うことがわかったっていうんなら、さしあたってはAちゃん」
天宮は言った。
わざとらしい咳払いを一つ、した後で。
「宝物みたいに抱えてるそのブルマーとスクール水着を、鞄にしまうくらいのことはしたらどうかな？」
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作者名：灰猫 | 作成日時：2022年7月24日 23時
