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「お前、先に帰ったんじゃなかったの？」
「廊下のところで、保科先生につかまっちゃって」
「なるほど」
担任の保科先生。
天宮は可愛がられてるからな。
「えっと……紹介が遅れたけれど」
遅れたというか、遅過ぎるけれど。
本人がいなくなってしまっている。
「さっきのが、昨日話した、弟の友達。中学二年生、椎名爽」
「ふうん……ああそうだ、訊こうと思ってたんだ。Aちゃん、その――蛇のこと。あれからどうなったの？」
やっぱり気に掛けていたか。
中途半端に相談してしまったしな。
「一応、解決は見たよ――結局は、また歌詞さんの世話になっちゃったけどね」
「ふうん。よくわからないけど、うん、でも、スピード解決だね。昨日の今日で、もう一件落着してるんだ」
「一件落着ってわけじゃないんだけどね……でもまあ、そんな感じ。
私と月崎にお礼が言いたくて、ここでずっと待ってたんだと。ご苦労さんなこった」
「お礼を言いに来てくれた人に対してそういう言い方はよくないよ、Aちゃん」
「いや、今のは言葉の綾――」
言い訳をしようとして。
やめた。
「まあ、そうだね。口が悪かった」
「よろしい」
満足そうに頷く天宮。
なんだかすっかり飼い慣らされている感じだ。
「けれど、えらく可愛らしい子だったね。椎名くん？
椎名爽くん、ね。確かにあの制服、Aちゃんの卒業した中学の奴だったね」
「お前は何でも知ってるね」
「何でもは知らないよ。知ってることだけ」
「はあん」
まあ。
その程度は、知っているか。
「でも、なんだろうね、椎名くん、とんでもなく人見知りが激しいみたいだったけど……」
「ああ……『あたためますか？』って訊かれてそれに返事するのも怖いからって、コンビニでは温める系の食品を買うことができないくらいの、人見知りだよ」
ちなみにこれは勝手な偏見でものを言っている。
意味もなく悪口を言っているのではなく、それくらいのことを言って笑いごとにしないことには、あいつのダッシュ逃げは、天宮に対してちょっと申し開きのしようがないからだ。
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作者名：灰猫 | 作成日時：2022年7月24日 23時
