ページ ページ14
今度は笑いを堪えているのではなく、本当にしょんぼりしている風にも見える。
おっと、少し言い過ぎたかな……無口な椎名なりに、会話が途切れないようにと気を遣ってくれたのかもしれないのに、それを突っ込みとは言えあそこまで怒鳴りつけるなんて、これは私が大人げなかったかもしれない。
「ごめんなさい」
やがて、椎名はそう謝ってきた。
むう、心苦しい。
「いや、ごめんなさいって言われるほどのことじゃ……」
「Aお姉ちゃんがどこまで突っ込むことができるのか、試してみたくって、つい」
「そういう事情があったんならもっと何回も繰り返してごめんなさいって言え！」
お前が試す側かよ！
突っ込みに限度はないが我慢には限度があるぞ。
愉快なことするじゃねえか、この内気少女。
「『そう言えば、Aお姉ちゃん』って言った時点では、本当はドラえもんの話をしようと思ったんじゃないの」
「あっそ……意外とアドリブの利く奴だな。じゃあ、そこからやり直しだよ」
「うん。そう言えば、Aお姉ちゃん」
「なんだよ」
「その、そらるくんのことなんだけど」
どうやら椎名は、ボケの基本であるところの繰り返しギャグを知らなかったらしく、ドラえもんの話をそれ以上繰り返すことなく、本当に話の筋を元に戻した。
うーん、なんだか物足りない。
これが浦田くん辺りだったら、繰り返しギャグどころではない、センスある切り返しを見せてくれそうなものなのに。
椎名の性能の限界はこの辺か。
「そらるがどうしたの？ 何も会話してないんでしょ？」
「うん……でも」
椎名は言う。
「あの子……ずっとオレのこと、睨んでた」
「……？ ああ、いや、あいつはいつだって、あんな目つきなんだよ。すげ――睨んでんだ。
私にだって歌詞さんにだって月崎にだってそうだ。特に椎名相手だけってわけじゃないよ」
気弱な椎名に、子供とは言え吸血鬼のガン見はキツいものがあったのか。
まあ、あの、四谷怪談のお岩さんさながらの恨みがましい眼は、そらると一番縁の深い私からしても、そら恐ろしいものがあるからな……いわんや椎名爽をや、だ。
しかし椎名は、
「そうじゃないの」
と言った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 9人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：灰猫 | 作成日時：2022年7月24日 23時
