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特に椎名が気弱というわけじゃない。土台、常識というルールが通用しないフィールドで戦える人間など、そうはいないのだ。
そういう意味では、いっそ私や月崎のように、一歩踏み出したままでいる方が、まだしも過ごし易いのかもしれない。
「とりあえず、あんな馬鹿げたお呪いには、二度と係わり合いにならないことだな――私が言えるのは、その程度だけど」
「うん……」
「歌詞さんの奴は、一度かかわっちゃった人間はその後も曳かれやすくなるものだとか言ってたような気もするけれど、それも本人の心がけ次第でしょ。
自ら避けることで、その辺りのバランスは取れるらしいし。まあ、何かあったら相談に来なよ。携帯電話の番号、教えたっけ?」
「あ……ううん、まだ」
オレ、携帯電話、持ってないし。
と、椎名。
そうだったっけ。
「まあ、掛ける分には構わないでしょ。メモ取りなよ」
「うん……」
照れくさそうな椎名だった。
心なし、嬉しそうにも見える。
携帯電話の番号を教えてもらうという行為が、どこか大人びて感じるとか、そんなところだろうか……中学二年生、背伸びしたい年頃だろうし。
まあ、私もあまり友達が多い方じゃないので、こうやって携帯電話の番号をやり取りする際、まだまだ緊張してしまう感は否めないから、そんな椎名のことをあれこれ言うことはできないが。
ファンシーなメモ帳に私の番号を書きとめて、椎名はそれを大事そうに、ウエストポーチに仕舞う。
制服にウエストポーチは、やっぱりミスマッチだったが、山で会ったときにもつけていたし、そのウエストポーチは、どうやら椎名のお気に入りの代物らしい。
「じゃあ――オレの家の番号、お返しに」
「サンキュ」
「Aお姉ちゃんも困ったことがあったら、オレに電話してね」
「んー……そんな状況あるのかな」
「Aお姉ちゃん」
「あー、はいはい。わかったよ」
「はいは一回だよ、Aお姉ちゃん」
「そうだっけな。とはいえ、お前の場合は、本当に困ったときは、私よりも歌詞さんのところに行った方が手っ取り早いんだけどね……でもまあ、あんな小汚いおっさんのところに、男子中学生が一人訪ねて行くってのも、無体な話でしょ」
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作者名:灰猫 | 作成日時:2022年7月24日 23時