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そうか。
まあ、そりゃそうだろうけどな……でも、無口同士で、何か通じるものがあるかと思ったのだが、しかし考えてみれば、元々は多弁だったそらると、元々無口な椎名とじゃ、通じるものがあるわけもないか……。
伊東空流。
黒髪にゴーグル付きヘルメット。
あの学習塾跡で、今は、私の恩人であるところの伊東歌詞太郎と二人で、暮らしている美少年――『暮らしている』と表現するには、いささか殺伐とした生活ではあるようだけれど。
「あの子……吸血鬼なんだよね」
椎名は言った。
それはもう、蛇を祓うにあたって負った私の怪我を治す際には隠し切れないことだったので、昨日の夜、ペットボトルを枕に寝る前に、椎名には既に話したことだ。
月崎の左腕のこともある程度まで話しているから、怪異に関して話すには、もう椎名は、遠慮する必要のない相手だった。
浦田くんと。
それから、天宮のことを除いて――だが。
「ああ……まあ、今は吸血鬼というよりは、『吸血鬼もどき』って感じだけどね」
私が人間というより『人間もどき』であるように。
彼は――そうなのだ。
「じゃあ、あの子の所為で――Aお姉ちゃんは」
「あいつの所為じゃないよ。私の所為だ。それに――怪異に責任を求めるのは間違っている。
あいつらは、ただ単に、そういう風にそうであるだけなんだから」
怪異にはそれに相応しい理由がある。
それだけのことだ。
「うん……そう、だね」
神妙に頷く椎名。
どうやら、私の言葉を、自分のケースと照らし合わせているらしい。
歌詞さん曰く、椎名のケースは、私がそれまでに経験していた場合とは、意味合いがかなり違うらしいから、一概に言えることはないのだが……。
「まあ、お前はもう、私や月崎とは違って、怪異から完全に解放されてるんだから、余計なことはあんまり考えないでよ。普通の生活に戻ればいいだけの話だけだよ」
お前は――戻れるのだから。
戻らなければならない。
「うん……そうなんだけど、でもやっぱり、あんなことがあるとわかって……あんなものがいるとわかって……これまで通りなんて、オレには、とても、無理だよ」
「…………」
そりゃあ――誰にだって無理だろう。
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作者名：灰猫 | 作成日時：2022年7月24日 23時
