きっと間違いだった。 (ページ5)

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冷たい表情で私を見下ろしているフロイド先輩と視線が合う──恐怖のあまり悲鳴を上げそうになったが、気を利かせたエースが口を塞いでくれたので、せずに済んだ。しかしどうした事か、目の前の先輩は機嫌が悪い。

「なぁんでオマエが小エビちゃんに触ってんだよ」

「す、すんません…？」

凄い勢いで、離れるエース。何時もの生意気な口は、流石にお休みらしい。

「そうやって触らせてんのどうかと思うよ、オレ」

「は、はぁ…」

貴方が言いますか、と言ってやりたかったがグッと堪えた。此処で何か言い返したってロクな事にならないのは明白で、此方が恐怖に震える道しかあり得ない。

実の所──この人は掴みどころが無くて、学園内で1番苦手とする先輩だ。当たり前の様にアズール先輩達も苦手だが、比では無い。別格である。

それも3週間前に遡るが、今は回想の余裕さえ無いだろう。

「じゃ、行こっか～！」

くるっと表情が変わり物凄い笑顔を向けられた。いや怖い。何処へ行くのかも聞けないし、これから何をされるのかも聞けない。まぁ怒るよりかは良いだろう、と素直に彼へ近付けば、浮遊感──抱き上げられたんだと気付くのに、少し時間が掛かった──驚きのあまり手に持ってた教材を落としてしまうが、本人は気にしてないのか私を肩へ乗せる。

「え…？」

時間の経過と共に地面との距離があり過ぎる現況に気付く。叫びを上げたって聞き入れられる訳もないので、震えながら彼の頭にしがみ付くしかない。半泣きでエース達を見たが「巻き込まないで」と言わんばかりに視線が外されたし、グリムはいつの間にか逃げ去っている──お前ら覚えておけよ──憎悪を抱きつつ、彼が歩く度に伝わって来る振動を味わうしかなかった。

「顔上げなよ小エビちゃん」

いつの間にか横抱きにされ、機嫌も直っている──聴き慣れた声が掛かったので直ぐに視線を上げれば、彼と視線が合ってしまい外せなくなった。

「そんな怖がってるとさぁー、絞めたくなっちゃう」

「か、勘弁して下さい！」

言いながらもケラケラ笑って言うので、やりかねない。

彼はしゃがみ込むと案外優しく下ろしてくれたので、胸を撫で下ろす。足元が安定した為か落ち着いてきたので──周りを見渡す。

「…教室？」

どうやら目的地は、誰も使っていな教室らしかった。

「授業とかかったるいからさぁ～、一緒にサボろ？」

拒否権なんか無いくせに、疑問形でくるのだから──つくづく狡い奴だと思う。