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こんな事なら、死んでしまった方が楽かも知れないと思う。
「…あぁ、良かった！目が覚めた様ですね」
目を開いて真っ先に、見覚えのある仮面が視界に入って来たが、声を上げるのが億劫な為それをぼんやり眺める──クロウリーさんは幾分か心配した様な声を掛けてきた。一言「大丈夫です」と言えばあからさまに胸を撫で下ろすのだ。
「心配で心配で…死んでしまうかと思いましたよ！」
随分と胡散臭い言葉である。
言葉を返さず上体を起こせば、ここは保健室(恐らく)なのだと認識する。態々運んで来てくれたらしい、少し申し訳なく思うのと同時に──帰れないという言葉が頭をよぎった。どくり、と如何しようもない不安と共に、煩く鳴り出す心臓。自身を落ち着かせながら、聞く。
「…あの、私は一体どうなるんでしょうか…？」
「…ふむ。起きられて直ぐ、というのは酷だと思ったんですが…まぁ分からない方が不安になってしまいますかねぇ…」
低く、しかし耳に心地の良い声だ──徐に手袋を外すと、私の手を包み込む様に握る。
「さて…魔法が使えず、才能もない…そんな生徒を入学させるのは、本来あってはなりません」
それは倒れる前にも聞いたので、重々分かっている──静かに頷いた。
「しかし、貴方はどういう訳か元の世界にも戻れず、保護者にも連絡が取れない。手持ちの荷物は無い様ですし無一文の若者を放り出すのは、教育者として非常に胸が痛みます…私、優しいので」
「なので！特例、という形で、この学園に滞在する事を許可します！どうです？優しいでしょう？」
優しいの押し売り業者なのだろうか、彼は。
しかし願ってもみない打診であったので感謝を述べようとする──の、だが。
「ですが1つ…困った事がありまして」
彼は目を細めると無遠慮に、確認するかの様な手付きで私の手を触る。
「貴方…女性ですね？」
「…あ、はい」
そういえば、といつの間にか身に付けていた制服を確認する。本来ならスカートを着用している筈の下半身には、これまたピッタリのズボンを身に付けていたのだ。
其処で、気が付いた。
(手を握ってきたのって…安心させる為とかじゃなくて、確認する為…？)
運んでくれたのは彼だろう、きっとその時に気付いたんだろうが──教育者として身包み剥ぐ訳にもいかず、こんな手法を取ったのだ──安心を返せ馬鹿野郎。
「此処ね、男子校なんです」
彼の口から発せられた言葉は、あまりに理解が追いつかなかった。
「…は？」
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作者名：初心者 | 作成日時：2022年1月5日 23時
