Q18:1つの視線 ページ19
その日の放課後。
私は桃井さんに声をかけて、第3体育館のベンチに座っていた。
点差は第1Qで、3点こっちが有利。
「……監督、これ……マズくないですか?」
「ん〜……確かにな」
「どういうことですか?」
桃井さんが首を傾げる。
何がマズいって……
「毎年、練習試合を組んでるところだから、向こうはこっちの、こっちは向こうのクセを把握してるのよ。おまけに……こっちの場合は選手が止まると……パスコースも同時に塞がれる」
私が呟き、12番の子が止まってボールを手にすると、既にパスコースは塞がれている。
「またアイツだ!止まるな!そのまま取って回せ!」
監督はそう指示を飛ばす。
「みんな止まると、パスコースが……」
「……そうだね。しかも、彼女はまだ無得点」
「……こうなれば……如月」
「私、捻挫してますけど……」
「ぐっ!各クォーター、残り5分でお前を出す。その間にテーピングでもしていろ」
「……わかりました」
「かっ!」
私は桃井さんの肩に手を乗せると、数回ポンポンと叩いて首を振った。
桃井さんは私を見ると、涙を目元に浮かべている。
「大丈夫」
私はそう言うと、テーピングを始めた。
監督の性格とかは知っている。
決定事項に逆らえば、2度とベンチに入れないかもしれない。
それをわかっているから、チャンスは潰したくない。
それから、監督の言葉通り、第1Qラスト5分。
私は背番号12の子と交代してコートに入った。
Aがコートに立ってから、男子バスケ部が第3体育館に入ってきた。
「あらら〜?如月先輩、出てるよ〜?」
「バカ、黙って見てろ」
虹村キャプテンがそう言うと、全員の視線がAに向く。
そこにはコートに入り、キャプテンである霧ヶ咲と他のチームメイトと何かを話すAがいた。
「……とりあえず、全員固い!去年のクセなんて、こっちも把握してるんだから、止まらないで!動けたら動いて!」
体育館内にAの声が響く。
それに周りが「了解!」と声を上げる。
「1年は如月から目を離すなよ?俺らとは1年遅れでレギュラーを獲得したからな」
虹村キャプテンがそう呟くと、第1クォーターラスト5分の試合が始まった。
下で試合をするAと、彼女を応援する虹村達を見つめる1つの視線があることを、彼らは知らない。
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作者名:アマユリ | 作成日時:2021年11月20日 16時