不確かシンドローム

・ ページ20

.





"案の定"だった。



『え、....けい、バイトは、』

『ごめ、ちが、....』


がっつり最中に乗り込んだ俺。

もはや笑いが込み上げてきて彼女の言葉なんて一言も聞き取れなかった気がする。

浮気相手なのかセ フレなのか分からないけど、男は俺と彼女が2年の時まで入ってたサークルの奴だった。

何を言おうか、なんて言おうか、迷った挙句に出た言葉。


『今日中に出てくからさっさと終わらせとけよ』


なんていう言葉だけだった。




大ちゃんに2時間も代わってもらう必要なかったな。

行くのに30分、着いてから家を出るのに3分、バイト先に戻るのに30分だったんだもの。
だから、ゆっくり、歩いた。



歩きながら、色々考えた。

考えて考えて、

考えたけど、



｢まじかぁ....｣



彼女のことがちゃんと好きだったと、思い知らされただけだった。




.




｢いのちゃんおかえりー！って、ぁー....｣
｢先輩おかえりなさーい｣


客が引いた時間に帰ってこれたらしく、カウンターにいた2人は揃って俺を迎えてくれた。

いつもは横暴で優しくない大ちゃんも、さすがに俺の様子を察したのか、｢ココアがいい？ホットティーがいい？｣って、優しくしてくれた。


ココアを受け取り、更衣室で着替えようと階段を登ろうとした時、


｢先輩｣


山田に、呼び止められた。


｢なにぃ....｣
｢今日俺20時上がりなんで、待ってます｣
｢....おう｣

それだけ言って、戻って行った。

20時上がりって。
俺のこと2時間も待つ気かよ。



山 田涼介。俺の二個下の大学一年生。
よく分からない、無駄に器用なやつだ。あと、俺に嫌味吐いてきたりする、可愛くない後輩。

現に今だって、山田が俺にあんなもの見せてこなければ....


なんて。



誰かのせいにしたって仕方ないのは分かってる。




｢くっそー、｣




口に含んだ甘ったるいはずのココアは、すごく苦かった。








.

・→←・

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す