不確かシンドローム

・ ページ19

.



大学の授業が終わった昼下がり。
最寄り駅のすぐそばにあるバイト先に向かうと、この時間は居ないはずの後輩が更衣室から顔を覗かせた。



｢先輩の彼女ってどんな人でしたっけ？｣
｢ん？取んのか？やんのか？｣
｢は？｣


いつも通り、無愛想な顔でスマホを弄る、とっくに制服に着替え終わった後輩・山田は、俺を見るなりにやっと笑った。

そうして、教えてもいないのに俺の彼女の話。
なんだ、こいつ。


｢去年からシェアハウスという名の同棲を始めてー、まぁ、うまくやってるよ｣
｢へぇ｣
｢可愛いし、優しいし、料理うまいし、｣
｢巨乳だし？｣
｢お前なぜそれを知ってる？｣


シャツを脱ごうとした腕をピタリと止め、山田の方を見るけど、知りません、て顔をしてまたスマホの画面に視線を戻した。

彼女とは付き合い始めてもう3年が経つ。
高校が同じで、偶然大学も同じで、色々意気投合して仲良くしてって、んで好きになったから付き合った、かなり純粋な恋愛をしている。

卒業したらこのまま結婚かなぁー、なんて、
最近は2人でたまにそんな話もしてるけど。

｢ところで先輩、｣
｢んだよー｣

着替え終わり振り向くと、すぐ後ろに俺より小さい山田がどんと立っていて。

ぱっ、とスマホの画面を俺に見せた。


｢その先輩の彼女、他に男いるらしいっすけど｣
｢....は、｣


目を疑うような写真に、思わず目が点になる。
そして、山田のスマホを奪い取り、近くまで画面を寄せてみた。

....間違いない。


｢....まじか。｣
｢ここ、最寄りの反対側にあるラブホ街っすよね。いやぁー堂々としてる｣
｢えー........｣


知ってる知ってる、このラブホ街知ってる。
だって彼女と行ったことあるし。いや、なんなら彼女としか行ったことないけど。

今朝どんな会話したっけ。

『けい、今日2限のあとバイトだよね？クローズ？』
『うんー、だるいー』
『頑張って、夜ご飯作って置いておくから！寝ないように頑張るね』
『ありがとぉがんばるーっ』


....したした、こんな会話したね。

ん？待てよ？


｢もしかして、｣
｢もしかしてかもですね｣
｢もしかしてかもだよな｣
｢有 岡暇って言ってたから呼んでるんで、2時間代わってあげますよ｣


ははっ、と俺を馬鹿にするような笑い方はムカつくけど、

往復1時間少しと、何かあった時用の時間をくれる山田と大ちゃんに感謝だ。


｢写真送っときますねぇー｣


ひらひら、と手を振る山田に見送られ、俺は財布とケータイだけ持って、自宅へと走った。






.

・→←▽優良物件 >>> ymin

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す