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篤「ただいま。」





いつもの日常と同じようにリビングの扉を開けたその人は、つい先程まであの大舞台で輝いていた人とは思えない。



見慣れたジャージ姿に、

何度言っても乾かすことのない髪の毛、



テーブルに並んだ母と私で作った料理を"うまそー"と眺めている彼は、まるで小学生のよう。





「お疲れさま。」

父「内田くん、おじゃましてるよ。」





思えば、こうして彼が試合から帰って来るのを料理を作って待っているのは初めてだ。

そのせいか、私にちらっと目線を向けた恋人は、少し照れ臭そうに頬を掻いている。





母「さあ、食べましょう。」





"篤人くん、あんなに動いてお腹空いたでしょ"と、まるで外で遊んで来た子供に言うようにご飯をよそる母に笑いながら、いつもより少し賑やかな食卓を囲む。





母「どう?」

篤「まじ、美味いっす。」





その言葉より、ガツガツとご飯をかき込んでいく彼の姿が何よりもの褒め言葉だ。

それはきっと、彼のことを想ってレシピを考えた母も同じはずで、





"そうだ、ちょっと時間があったから色々調べてきたのよ。"

"こっちが疲労回復メニューで、試合前はこっちね。腹持ちがいいメニュー。"





そう言って鞄から取り出した二冊のノートを、母は私に手渡した。

中を覗けば、優しい字で書かれた数々のレシピたち。





篤「やっぱ似てますね、味が。」

母「Aさんと?」

篤「はい。」

母「どっちの方が美味しいかしら?笑」

篤「んー…お母さんの勝ち。笑」





隣に座っている恋人を横目で見れば、面白そうに悪戯な笑みを浮かべている。

"あら、年の功よ"と謙遜する母だけれど、その顔はこの上なく上機嫌で、



こういう時、彼は人の扱いが上手いなとつくづく思う。





父「お父さんはAの手料理の方が好きだぞ。」

「…ありがとう。笑」



母「……お父さん?それなら私はもう作りませんよ。」





彼と比べると人の扱いが少し苦手な父。

私を想っての余計な一言は、母の逆鱗に触れてしまったようだ。





"あなたも仕事で忙しいと思うけど、食事はちゃんと作ってあげなさい。"

"篤人くんにこんなに大切にしてもらってるんだから、あなたも篤人くんを大切にしないとね。"





母の温かさにはまだ敵わないけれど、あの二冊のノートに少しずつ書き足していこう、

私なりの、彼への想いを、

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いく(プロフ) - ちなみに、わたしもずっとピアノをやっているので出てくる作品がお気に入りだったりして楽しいです。 (2014年10月26日 18時) (レス) id: 90fb3cb615 (このIDを非表示/違反報告)
いく(プロフ) - こんなにひき込まれた作品は初めてです。ヒロインが幼馴染といる時に内田さんの言葉一つ一つを思い出してしまうところ、涙が止まりませんでした。続編、読み進めようと思います。 (2014年10月26日 18時) (レス) id: 90fb3cb615 (このIDを非表示/違反報告)
laiz(プロフ) - ななさん» こんばんは!素っ気ない内田さんでも、主人公は結構愛情をストレートに表現するので大丈夫なのかもしれません(^^)最後の伏線、だんだんと明らかになっていく予定です。なにが二人を待ち受けているのか…(._.)いつも温かいお言葉をありがとうございましたm(_ _)m (2013年11月14日 20時) (レス) id: e2e17d63f3 (このIDを非表示/違反報告)
laiz(プロフ) - neneさん» ありがとうございます!同棲生活、順調な滑り出しです(^^)車をサラッと購入って…もう内田さんにしか出来ませんよね(^^)続編作成致しましたので、これからの二人がどうなるのか是非覗きにいらしてください!いつ温かいお言葉をありがとうございますm(_ _)m (2013年11月14日 20時) (レス) id: e2e17d63f3 (このIDを非表示/違反報告)
laiz(プロフ) - うっちーさん» あちらの作品も気に入って頂けたみたいで嬉しいです(*^^*)ずっと更新滞ってしまっていますが、そろそろ更新しないとですね(・_・;こちらのお話は続編作成致しましたので、是非覗きにいらしてください(^-^)いつも温かいお言葉をありがとうございましたm(_ _)m (2013年11月14日 20時) (レス) id: e2e17d63f3 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:laiz | 作成日時:2013年10月21日 20時

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