交響曲第5番 ll

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「お疲れ様でした。」





時刻は午前2時、

仕事を終えてホテルを後にすれば、いつもの場所には黒いトゥアレグが停まっていた。

左側の運転席を覗くと、日付が変わる前にとっくに自宅に帰っていったはずの恋人の姿。





「…なんで、」

篤「なんで弾けんの？Skinny Love、笑」





"何故ここに居るのか"という問いかけを遮って笑った彼は、つい数時間前の服装とは打って変わってラフなジャージ姿。



そのジャージは、

私の家のクローゼットに眠っていたものだ。





篤「バーディーのSkinny Loveでしょ？あれ、」

「曲名は知らないけど、最近篤人くんが良く聴いてたから覚えちゃった。」

篤「ふっ、すげー。笑」





"敵いませんね、Aさんには"と小さく笑う彼に促され、いつもの助手席に乗り込む。





篤「帰りますか、」





"あ、風呂沸かしといた"とアクセルを踏む彼のポケットからは、人形型のキーホルダーが揺れている。





篤「風呂あがったらよろしく。」

「？」

篤「弾いてくれんでしょ？俺が寝るまで、」





"弾いてあげるのに、"

"CDじゃなくて、家に来ればいつでも弾いてあげるのに、篤人くんが眠るまで。"





「…うん。もちろん。」





"マラ5は今じゃない"の意味が、

今やっと分かって、





「ドライヤーどこにあるか分からなかった？」

篤「いや？分かったけど？」

「もう、ちゃんと乾かさないと風邪ひくよ？」

篤「はいはい、笑」





いつもより少し腫れた目に、
いつもより少し暗い声、

いつもと変わらないその笑顔の裏に、
彼は眠れないくらいに辛い事実を抱えていて、



でもきっと自力で乗り越えるのだろう、

強い人だから。





「今度からは迎えに来なくていいよ？湯冷めしちゃうでしょ。」

篤「…ふっ、はいはい、笑」





その時が来るまで、

辛くなったらいつでも私の音を聴きに来てほしい、





ーー





〜♪〜♪



ー交響曲 第5番ー
Symphony No.5 in cis moll
グスタフ・マーラー
(Gustav mahler /1860-1911)





お風呂に入り眠る支度を済ませた時には、もうすでに午前3時をまわっていた。

いつもより狭いセミダブルのベッドに寝転んでいた彼は、眠たそうだけれど眠れない様子で、



寝室の扉を少し開け、彼の元にアダージェットが届くように音を奏でる。

この音色が、少しでも彼の傷みを癒せるように祈りながら、

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