思い出 ページ47
杏寿郎は虚から受け取った(事にした)羽織を持って生家へと帰ると、門の前で浮かない顔で立っている千寿郎を見つける。
「千寿郎?」
「っ!兄上、お帰りなさいませっ・・・えと、その羽織は?」
杏寿郎に気付いた千寿郎は嬉しそうに駆け寄ると手にしている羽織を指さした。
「あぁ!聞いて驚け千寿郎。これはな、姉上の羽織だ!」
「えっ!?姉上にお会いしたんですか!?いいなぁっ!是非僕もお会いしたいですっ!」
「そのことなんだがな千寿郎、姉上には会えなかった!」
「え・・・?なら何故姉上の羽織を?」
その質問に杏寿郎は一瞬開きかけた口を閉じ、心配をかけないように小さな嘘を吐いた。
「それは・・・すまん!オレもあまり良く覚えていない!」
「えぇ!?」
「見ての通り頭を打って気絶してしまってな!何故オレも姉上の羽織を持っているのか分からないんだ!きっと姉上が俺の危機を察知して来てくれたのやも知れんな!」
ワッハッハッハ!と高らかに笑う杏寿郎を見て千寿郎は少し残念そうな顔を浮かべ、そんな千寿郎の顔を見て杏寿郎は持っていた羽織をフワッっと千寿郎の肩にかけた。
「あ、兄上?」
「うむ!やはり千寿郎には少し大きいみたいだな。だが、お前が羽織っていた方が様になるな!その羽織を大事にしなさい!」
「えぇっ!?そんなっ、これは兄上がお持ちくださいっ!・・・僕は、姉上の事は兄上の話でしか知らないので持っているのは違うんではないかと・・・。」
本当は欲しいが、話でしか知らない自分よりも良く知っている杏寿郎が持っていた方がいいに違いないと千寿郎は遠慮してしまう。
しかし、そんな千寿郎の気持ちを察した杏寿郎は目線を合わせて首をゆっくりと横に振った。
「いいのだ千寿郎、兄は既に姉上からこの組紐をもらっている。その羽織は俺が着るには少し・・・いや、かなり小さい。それに姉上は俺だけではなく、俺達の姉上なのだ。当然、お前にもそれを持つ権利がある。」
「兄上・・・はいっ、ありがとうございますっ!」
千寿郎はさっそくAの羽織に腕を通す。
確かに千寿郎にはまだ大きいが羽織の袖を嬉しそうに頬に当てた。
「この匂い、知ってる・・・そう、僕がまだ物心つく前、姉上の背中で嗅いでいた優しい思い出の香りですっ。」
嬉しいなぁと懐かしい香りに涙を浮かべる千寿郎を杏寿郎はそっと抱き寄せ、Aが己にやった事と同じようにその小さな背中を優しく叩いたのだった。
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あまね(プロフ) - 続き気になる! (9月29日 0時) (レス) @page50 id: 2b125e9969 (このIDを非表示/違反報告)
ぴーたん(プロフ) - meさん» いつも読んでくださりありがとうございますっ!!少しずつですが完結まで頑張っていこうと思います! (2020年10月22日 15時) (レス) id: 3f898f19d6 (このIDを非表示/違反報告)
me(プロフ) - 右の星を押したら既に投票済みでした..いつも楽しく読ませてもらってます!続きもがんばってください! (2020年10月22日 12時) (レス) id: 47178bfabc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぴーたん | 作成日時:2020年5月13日 14時