初陣 ページ16
隊服が届いたのは、刀が来てからすぐの事だった。
「南西ノ集落ニテ鬼ノ被害アリ!被害ガ拡大スル前ニ鬼ヲ退治セヨ!」
隊服に身を通していると、頭上で騒がしく飛び回る鎹烏の六郎に苦笑いを浮かべ刀を帯刀挿す。
廊下に出ると不安そうな顔を浮かべた杏寿郎が私を待っていた。
『杏寿郎、いつからそこに。』
「それは…その…っ」
「今回ばかりは許してあげてください、以前貴方のお見送りが出来なかったので私が部屋の前で待つ様に助言したのです。」
物陰から見守っていた瑠火が顔を出すと、杏寿郎の肩に手を置いて代わりに代弁した。
「ほら、Aに渡さないのですか?」
『渡す?』
「姉上っこれをっ!」
杏寿郎が勢いよく差し出したのは少し…いや、かなり歪な形をしたお守りだった。
はたから見れば呪いの道具と間違えられてもおかしくないはどのものだった。
『これは…お守り?』
「はいっ!姉上が無事に帰ってくる様にと母上に習って作りました!…形は歪になってしまいましたが。」
『杏寿郎…。』
針で何度も指を突き刺したのだろう、所々指の傷が手当てされていた。
その手を見て涙が出そうになるのをグッと堪えて小さい体をそっと抱き寄せた。
『ありがとう、杏寿郎。』
「…はい。姉上。」
杏寿郎から体を離し瑠火を見上げると、瑠火は何も言わず腕を広げ、Aは一瞬だけ目を見開くと、吸い込まれる様にその腕の中に収まっていた。
「心に炎を灯しなさい、弱き者を守るのです。」
『はい、母上っ!』
ぎゅっとお互いに力一杯に抱きしめあった後、烏を連れて門の前に行けば、そこに槇寿郎は待っていた。
「初任務だな。」
『はい、煉獄の者として…父上の弟子として恥じないように任務を成功させてきます。』
「よく言った。」
槇寿郎は大きく頷いてAに視線を合わせると、朱雀の刺繍が入った黒い羽織をそっとかけた。
「入隊祝いだ。夜は冷えるから身に付けておきなさい。」
『ありがとうございます、父上っ!…それでは、行ってまいりますね!』
「あぁ、行ってらっしゃい。」
遠くなるAの背中が逞しく見えた事に槇寿郎の瞳から堰き止めていた涙が溢れ出る。
「君の娘は君に似て、こんなにも逞しかったんだなっ。」
背中を撫でる微風が誇らしげに“そうでしょ?”と応えたような気がした。
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あまね(プロフ) - 続き気になる! (9月29日 0時) (レス) @page50 id: 2b125e9969 (このIDを非表示/違反報告)
ぴーたん(プロフ) - meさん» いつも読んでくださりありがとうございますっ!!少しずつですが完結まで頑張っていこうと思います! (2020年10月22日 15時) (レス) id: 3f898f19d6 (このIDを非表示/違反報告)
me(プロフ) - 右の星を押したら既に投票済みでした..いつも楽しく読ませてもらってます!続きもがんばってください! (2020年10月22日 12時) (レス) id: 47178bfabc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぴーたん | 作成日時:2020年5月13日 14時