好き、やねん。 (ページ28)

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俺も吸ってる身としてあんま良い顔をされへんことは珍しく無いがその度にほっといてほしいと思ってしまうのでそんな大事な彼氏が出来たんやと悲しくなり、喫煙所で話すことも無くなるんやと悲しくなった。

そんな俺の哀しさも誰にも知られることなく、今吐いた煙と共に夜空に消えていく。

＂なあ、にーやん。私も、吸いたい。＂

『え？』

「そんな驚かんといてよ、笑吸いたいって言っただけやんか笑」
『いや、だって……吸わへんようにしてるんちゃうん？』
「んー、まあそやねんけど。」

「今、だけさ。にーやんの前だけではめんどくさい女で居てもいい？…………察して、ほしい。私のこと。」
『察、する、？』
「うん、察して。………火、貸して。」

Aの言ってることが全然わからんくて、ふと口にタバコを咥え髪をかきあげるAがいつもとまるで別人に見えて。
俺も理解力とか無い方ではないと思うんやけどな、
でも正直＂察する＂って俺がめちゃくちゃ苦手なこと。でもAはそれをわかってながら俺に察して欲しくてそう言ってる気がしてならない。
とにかく別にタバコを吸うAが嫌なわけでは無いのでライターを渡した。

「ちゃう、ライターなんていらん。」
『は、？』
「そこにあるやん、火。」

そう言うとAはタバコを咥えたまま顎をクイっと俺の手に持ってるタバコへ動かした。

『どゆこと、』
「吸って。」
『俺が？』
「うん。」
『これを吸ったらええん？』
「うん。……あ、届かへんからしゃがんで。」

とりあえず訳が分からなくて言われるがまま少ししゃがんでタバコを吸う。

すると、タバコの先が若干紅く染まったタイミングで、Aが咥えていたタバコの先を俺のタバコの先に、押し付けた。
Aの手が肩に置かれ、Aの顔が気付けば目の前にあって、さらりとした髪が俺の頬を撫でて、ふわりとシャンプーのいい匂いがして。
その間、俺は何も出来ずにただただAのことを目で追っていた。

「ふは、一回やってみたかってん。

シガーキス、ってやつ。」

察するという行為から遠く駆け離れた男とも呼べるこの俺が、そう言い放った彼女の目から何かを感じ取った。
察した。

『まあ、いつでもええから好きな時に俺んとこ来て、』
「今。」
『え？』
「今行く。私やっぱ、タバコ好き。」
『………俺じゃなくて？』

「ん？そんなんにーやんは好きちゃうよ。

愛してるんやんか。」